第一章 離れていく背中
惑星を作り直した数日後。
ラゼルは心の中で複数の感情と葛藤していた。
ずっと告白するのは躊躇っていたが、今日、思い切って打ち明けてみることにした。
「ねえ総長、うちさ…
…自分の部屋が欲しい。」
総長は驚いた表情をラゼルに向けた。
「…どうしても、か?」
「…」
告白したものの、ラゼルはまだ心の中では葛藤していた。
うちはずっと、総長の部屋で暮らしてきた。
感覚としては、総長は『義母』のような存在。
でも、うちは子供じゃない。
…一人に…なりたい。
総長はもちろん困惑した。
彼女はここでは自分の部下のような存在だが、本当は逆だ。
彼女は大先輩で、自分は下だ。
血も直接繋がっている訳ではない。
それでも、彼女は自分の家族の一人だ。
総長は、ラゼルには離れて貰いたくない。
「なあ、考え直さないか?
この部屋の方がベッドが広いし、部屋も広い。
それに「そうじゃなくて」
ラゼルは食い気味に否定した。
「幹部って、本当は専用の区画で生活するんでしょ?
総長と一緒に暮らしてる幹部、うちだけだよ。
うちだけ、子供みたいじゃん」
総長は俯いた。
ラゼルも、下を向いたまま両手を握る。
自身も本当は言いたくはなかったが、言わないと伝わらない。
決意して、今こうして総長に打ち明けた。
総長は嫌だった。
ずっと一緒に過ごしてきたのに、
離れて暮らしたら距離が遠くなってしまうんじゃないか、と。
でも、彼女の言う通りかもしれない。
彼女が自身に依存しているのではなく、
自身が彼女に依存してしまっているのかもしれない。
総長は覚悟を決めた。
「…わかった。
…部屋を用意してやるよ。」
ラゼルは総長に新たな部屋の場所に案内してもらう。
自分の願望は叶った。
だが、笑みは浮かんでいなかった。
ラゼルは無言で総長の背中を見ながら後を追う。
ついていくにつれて、全然見たことがない場所へと景色が変わり、雰囲気も変わった。
総長はある扉の前で立ち止まり、振り返った。
「ここが今日からお前が暮らす部屋だ。
私の部屋みたいに門限は無い。
自由にしてくれ。」
総長はそう言ってラゼルの顔を名残惜しそうに見つめた後、自身の部屋へと帰っていった。
ラゼルは総長の顔を見ず、壁の方をひたすら見つめていた。
総長が通路の角へ行って姿が見えなくなるのを確認するとドアノブに手をかけ、普通に開けようとした。が…
…開かない。
(あ、そういえば何にも聞いてなかったや…)
ラゼルはデバイスでドアを解析する。
デバイスの情報によると、
[ 新たな部屋の持ち主は簡単な手続きを行い、ドアと部屋とを紐付けしてもらう必要がある ]…らしい。
(手続き…?)
ラゼルは困り果てるが、とりあえずヘクスレブラに直接通信を入れて聞いてみることにする。
『あ〜!ラゼルさん!
ついに自分のお部屋をお持ちになるんですね!
おめでとうございますっ!!
じゃあ、お部屋の番号を教えてください!
こちらでドアを開けられるように設定するので!』
やたらとハキハキした声で通信が返ってきた。
ラゼルは住む予定の部屋の番号を伝えた。
『…はい!おまたせしました!
今からそのお部屋がラゼルさん専用のお部屋になります!
ごゆっくりどうぞ〜♪』
通信が終わり、ラゼルは再度ドアノブに手をかける。
ガチャ!
(開いた!)
ラゼルは、一旦総長の事は忘れて部屋を楽しむことにした。
中に入ると玄関があり、正面には背が高いパーテーションがあり、簡易的な壁という役割をしていた。
玄関から右に進みパーテーションの横を通って左を見ると、
少しゆったりした広いベッドとデスク、棚、テーブル、椅子などが既に置かれていた。
その部屋に入り左を見るとキッチンが見える。
右を見ると、大きなすりガラスが見える。
右の部屋に入る。
こっちはお風呂と洗面所とトイレのようだ。
あれ?おかしいな…
総長の部屋はこんな豪華な脱衣所じゃないのに…
どこかの良さげなホテルのような脱衣所だ。
ガラスのドアを開けると、
星空満点の空が見渡せる、広くゆったりしたお風呂だ。
浴槽の中に腰がかけられそうな段もある。
(すご!
こんなとこで暮らしていいの!?)
ラゼルは部屋を見回してウッキウキになった。
総長の部屋はよくあるマンションのような部屋なのに、この部屋は高いホテルのような部屋だ。
間接照明でお洒落さが倍増している。
壁は白で、洗面キャビネットがこげ茶色で木目柄があり、洗面ボウルがその上に置かれていて真っ白でツヤツヤ。
所謂”ベッセルタイプ”の洗面だ。
しかも壁や床に間接照明付き。
ラゼルはスキップするとベッドにダイブした。
(なんだよ〜!
この部屋の方が広いし豪華じゃ〜ん!
総長、嘘ついたな〜!?)
ラゼルは今日からこの部屋で暮らすことになった。
この区画をよく通るようになったので、同じく幹部の戦士達と仲が深まるようになった。
しかも、その中にあの”ズボラ女”もいる。
住む場所が新たな部屋になってから数日後。
今日はハイノを初めて部屋に招待する日。
ラゼルは玄関で待機。
『来たわよ〜ドア開けて〜』
ラゼルはドアを開け、ハイノを部屋に招き入れた。
「あなたの部屋、豪華すぎない!?」
「そう?幹部って皆こういう部屋になるんだと思ってたけど」
「え、あ〜…私がおかしいのかしら…」
「ハイノも自分の部屋あるんでしょ?」
「あるけど、あそこは本当はただの仕事部屋なの。
あるのはソファとデスクと簡素な棚だけ。
私が勝手にその部屋にベッドを持ってって寝泊まりしてるだけ。」
「ハイノがおかしいんじゃん!」
「っテヘ☆」
ハイノはウインクして舌を出し、頭に拳を当てる。
ラゼルは何も言わずに、お菓子とジュースを持ってきてテーブルに置くとソファに座った。
暫くの間、2人だけでいろんな話題で盛り上がった。
話をするごとに、ラゼルはある事が気になってきてハイノに聞いてみた。
「ハイノの部屋、見てみたい!」
ハイノはラゼルを、仕事部屋ではない本来の部屋へ連れて行った。
「なんだ、ハイノの部屋も豪華じゃん!」
「最近新しくなったんだってね
私は興味なかったけど」
ドサ!
ラゼルは自分の部屋からお菓子とジュースをそのまま持ってきていて、ハイノの部屋のテーブルに全て置いた。
「ここで過ごす気満々ね…」
「ムフ〜!」
ラゼルは椅子に座ると頬杖をつき、頬を赤らめ口角をつり上げた。
この部屋でもまた話で盛り上がった。
ハイノはラゼルにある要求をした。
「ねえ、今度2人でお宿に泊まりに行かない?」
「いいね!いつにする?」
「じゃあ1週間後、前日に座標教えるからそこで落ち合いましょ!」
「わかった!」
第二章 進む計画
ある薄暗い部屋で、中肉の男がデスクに向かって何かをしていた。
最近買ったのか、比較的新しめのトレーニング器具が沢山置かれており、
彼はスマホのような端末を片手に、書類を読み取っていた。
(よし、今日はここまでにしとこう…)
彼は書類と端末を特殊な金庫にしまうと、部屋を後にした。
彼が部屋を出て風呂場へ向かうのを見たのか、若い青年が部屋に忍び込んだ。
青年は特殊な金庫の前に来て屈むと、何かをボソボソと唱えるように口にした。
すると金庫から『ピッ』と鳴り、青年は金庫を開けた。
だが、中に入っていたのは真っ白な沢山の紙と、起動しないスマホだった。
(これか?なんも書かれてねーけど…)
青年は心でそう思いながら、紙だけを全て手に取り金庫の扉を閉めると、急いで部屋を出て行った。
風呂場に向かっていた男は、首にフェイスタオルを巻き、顔を拭きながら部屋に帰る。
彼は青年がやっていた事と同じ事をして金庫を開ける。
「無い!!なんで!?」
彼は大慌てでベッドの上に置いてあったスマホを手に取り、ある番号にかけた。
一方、青年は沢山の紙をバッグに詰め込み、狭い辺鄙な場所に来て、ある扉をノックした。
その数秒後、かなり背が大きく全身に肉がついた大男が出てきた。
「オッス!希望の書類、持ってきました!」
「寄越せ」
大男はそれだけ言って、青年のバッグを強引に取り上げると部屋の中へ消えていった。
「クフフw
元々は白髪の美女にする予定だったけど、
俺、予定変更するわ!
もっといいのが明後日来るから!www」
建物の中から青年の笑う声が漏れた。
宿泊する日の前日、ハイノは仕事部屋ではない本来の部屋で荷物の準備をしていた。
コンコン
玄関のドアからノックする音が聞こえたので、ハイノは出迎える。
「何の用?」
出迎えると、部屋に来たのはヘクスレブラの社員だった。
「ちょっと調べますよ」
社員はそう言ってハイノを避けて部屋に押し入り、
一直線にコンセントへ向かった。
社員はコンセントを外し、そこからとても小さな部品のようなものを取り出してハイノに見せた。
「”超小型の自律移動式盗聴器”です。
四本の脚を使って移動する構造のようです。
外装の素材からして、かなり古いものだと思われます。
相応の経年劣化が見られるが、内部構造は非常に精巧です。
このノイズを聞けば真っ先にわかるはずですが?」
「知らないわ、今初めて知ったもの…
最近はずっとこの部屋では過ごさないし…」
「この装置の劣化と、この施設の防衛設備が整備された時期を照らし合わせると、ひとつ気になることがあります。
現在の防衛体制では、外部からこのような装置を持ち込むのは容易ではないでしょう。しかし、過去にはそれが可能だった時期があった。
つまり、この盗聴器は防衛設備の盲点を突いて設置されたのではなく、そもそも防衛設備が整う以前に持ち込まれた可能性があるのです。
私の多領域情報処理ユニット(オアーエヴァンデバイス)によれば、これはレツェノイルのある再生生体アンドロイドによって貴方の服に仕込まれたものです。
再生する生体アンドロイドは通常の生体アンドロイドと比べてかなり寿命が長く5000年、その倍以上生きる個体もぞろぞろ存在します。
仕掛けた犯人が本当に再生する生体アンドロイドなのであれば、この劣化も納得がいきます。」
「じゃ、じゃあ予定は中止にっ…!」
「いえ、その必要はありません。
予定通りお楽しみください。では。」
「え、ちょっと!」
社員は盗聴器を持って部屋を出て行った。
第三章 山奥の隠れ家
ハイノと宿泊する当日。
沢山の星が輝く。
ラゼルはコンビニの前で、店内の明かりを背中で受けてハイノを待っていた。
来たことが無い場所なので、デバイスで周辺を解析して調べていた。
(ここらへん、なんもないな〜
宿の近くの店って、ここだけじゃん…)
そうこうしていると、遠くから車が此方に近づいてくるのが音でわかった。
音が段々近づき、車を視界に捉えると此方に向かって来る。
コンビニの駐車場にその車が停まると、4人の男が降りてきてラゼルへ歩み寄ってきた。
「おいおい、俺らの場所に知らんチビ女がいるぞ」
銀色に輝くピアスを沢山つけていたり、髪を派手な色に染めていたり、体にタトゥーを入れている者もいた。
「おめー、何様のつもりでそこ突っ立ってんだよ」
髪を金髪に染めた一人の男が、パーカーのポッケに両手を突っ込み、目を見開いて睨みつけながら執拗に近づく。
ラゼルは冷静に男の顔を睨み返すと、目を見て悟った。
男の威嚇は”演技”だ。
「チッ…」
金髪の男は舌打ちして後退し、3人に指示を出した。
「やっちまえ!!!」
コンビニの前で、激しい打擲音が響き渡る。
店内にいた店員は怯えながらも慌てて表に出る。
「な、何事ですか!?って…」
外では、4人の男が血を流して倒れ、或いは蹲っていた。
「コイツらが襲ってきたからやり返しただけです」
ラゼルはズボンのポッケに両手を突っ込んだまま、店員の顔を見て言った。
「あ、あんた…」
ハイノはこのタイミングでラゼルと合流したようだ。
「…さ、行こ!」
ラゼルはハイノに催促するとジェットフォームに変形し、扉を開けた。
ハイノはやれやれと、キャリーケースを引きながらラゼルに乗りこみ宿へ向かった。
「宿はこの山の中腹にあるわ
山頂にあるのは宿の施設よ
道路を辿ってけば着くわ」
ラゼルはハイノに指示されるがまま飛行し、目的の場所に辿り着いた。
和風でどこかイレクトロシティのような未来的な雰囲気も感じる。
ラゼルはそこでハイノを下ろし、人型形態になって後を追う。
建物内に入り、ハイノはロビーのカウンターに向かう。
ラゼルはホテルを利用したことが殆ど無く、手続きをするハイノを無言で見つめる。
ハイノは鍵を受け取りチェックインを済ませ、宿泊する部屋に行く。
「ここ、立派なのに全然他に人いないわね」
「こんな場所だからじゃない?」
「ん〜…まあそうね…
宿の近くの施設は全て宿泊者専用だし、一番近いのはあそこのコンビニだしね
しかも、あのコンビニとそれなりに距離がある」
「でもスタッフさんは良い人だったね!」
「そうだけど、にしても人が少ないと思うの。
口コミもそこまで悪くはないしリピーターも一定数いる。
下調べしてなかったけど、なんかあったのかしら…」
話していると泊まる部屋の前に辿り着いた。
鍵を開けて部屋に入ると、やはり和風な雰囲気が広がっていた。
ハイノは部屋の隅にキャリーケースを置いて座布団に座る。
「はぁ〜疲れた〜」
「まだ部屋着いただけじゃん!」
ラゼルは笑いながら言った。
「いや、あのコンビニまでが、よ。
ここ、場所が場所だから待ち合わせできそうなわかりやすいとこがあのコンビニしかないのよ
ファルラーズがなかなか捕まらないし、結局徒歩であそこまで頑張ったのよ
…てかあんた、服はどうする訳?」
「え?」
ハイノはキャリーケースにお菓子や数日分の服を入れて持ってきている。
だが、ラゼルはパッと見着替えも何も持ってきていない。
「うちはさ、これができるから」
ラゼルはそう言って目の前に服を何着か出してみせた。
「どうやってんの!?」
「え?体に服を収納してるだけだよ」
「いや、そうじゃなくて…
その”収納”をどうやってるかを聞いてるのよ」
「体の機能の一つだよ」
「便利ね…」
「あのさ、ご飯はコンビニで買っといたんだけど、飲み物はどれがいい?」
そう言ってラゼルはテーブルにリンゴジュース、緑茶、コーラの3種類の飲み物を出した。
「あー、センスがあんたらしいわね
アルネアとグリーンティーとヴァルネとか…」
「なんだと〜!?」
ハイノはスマホを取り出しなにかをすると、ラゼルに画像を送信した。
ラゼルは目の前にディスプレイを浮かび上がらせて画像を確認した。
「なにこれ?」
ハイノから送られたのは謎の瓶の画像だった。
「それ買ってきて
一階の土産屋に売ってるはずだから」
「はいはい…」
ラゼルは渋々頼まれたものを買いに行った。
数分後、ラゼルはビニール袋を手に握って戻ってきた。
「これでいい?」
「お、サンキュー♪」
「ハイノってこんなの飲むんだね」
「別にいいでしょ〜
こうやって泊まることなかなか無いんだし
よし、準備できたことだし、行きましょ!」
「どこに?」
「山頂に施設あるの教えたでしょ
あそこに行くのよ」
「ふ〜ん?」
ハイノは先導して目的の施設へ向かった。
「施設ってこれ?」
「そう、そこで降ろして」
ラゼルは着陸すると扉を展開してハイノを降ろし、人型に変形した。
「まずは”庭園”よ!」
「ていえん?」
「綺麗な景色と和菓子が楽しめるのよ」
屋内に入ってみると、またもや和風な建物だ。
でも、宿と違ってここは幻想的だ。
壁や天井、植物にホログラムの装飾が施されている。
「すごーい!きれーい!」
すると、2人のもとに和服を着た女性が近づいてきた。
「予約しているハイノ・ソリタリアです」
「お待ちしておりました。どうぞ、こちらへ。
本日はお二人だけの特別な空間となっておりますので、ごゆっくりお寛ぎください」
2人は外の庭が見える野点の席へ案内された。
少しすると、和服を着た女性のスタッフが両手で盆を支えながら2人の元へ歩み寄った。
「お待たせいたしました。こちら、お茶菓子でございます。
どうぞお召し上がりくださいませ。」
お盆の上にはお茶と練り切りと小さな尖ったものが乗せられていた。
「すごい!これ、食べていいやつだよね?
いただきまーす!」
「ちょ、ちょっと?!」
ラゼルは乗せられていた練り切りを、一緒に乗っていた尖ったもので丸ごと突き刺すと、そのまま口に放り投げた。
「ん〜!これめっちゃ美味しいよ!
ハイノも食べてみてよ!」
「あ〜…
…そうね。」
ハイノは楊枝を手に持ち練り切りを小さく切ると、突き刺して口へ運んだ。
「本来こうやって食べるのよ」
「これってルールあるんだ?
知らなかったー
見た目がお洒落で凝ってて、食べるの勿体ないね」
「食べたら他回るわよ」
「うん」
2人はお菓子を食べてお茶を飲み終えると、周辺を見て回った。
木々にホログラムが浮かび上がり、庭の石畳や灯篭はネオンに輝いている。
「イレクトロシティとはまた違った感じだね」
「そうね」
2人は一通り見て回ると屋外に出て、少し歩いた建物に入った。
「ここってなんなの?」
「ここは屋上にプラネタリウムがあるのよ」
「ほーん?
星なんて普段から見てるけどな〜」
「たまにはいいじゃない
仕事から離れて見てみるのも」
2人はエレベーターに乗って屋上で降りた。
そこには、ベッドのような席がいくつか並び、上には満天の星空が輝いていた。
2人は適当なところで横になって空を見上げた。
「あれ見える?
淡い水色のやつ
赤とオレンジに挟まれてる星」
「あ、あれ?」
「あれはリュネス。
何年か前に調査に行かされたわ。」
「あれはナイセラ座γ星、あれはオルヴェスト、
あとあれは確か…ORN-12C、だっけ
他はなんだっけ?へへw
あー!あそこの緑のはヴェイラス。
調査に行った時ヤバかったよ。
どこに行ってもとんでもない酸の大嵐だった
アステリアはそこまでではなかったなー
周辺の星の中ではそれなりのサイズの恒星で、内部の調査に行かされたことある」
「結構いろんな星行かされてんのね」
「まあねー
あそこのノクティア座のすぐ近くに赤い点あるの見える?
あれAST-Y7594-6246ってやつ。
遠くから見たら赤色で、近くから見たら砂っぽい色なんだけど、中に入ったら超音速の磁気嵐でさ!
テーマパークのアトラクション感覚だったよ!」
「とんでもないとこ行かされてるわね…」
2人は沢山の星を見ながら思い出を語った。
「さ、次は露天風呂行きましょ」
「うん」
ラゼルは背中にハイノを乗せて道路を駆け、3つ目の施設へ。
「ここは凄いのよ
山奥ならではの景色が楽しめるお風呂があるの。」
2人は奥へ進み服を脱いで浴場へ入る。
宿泊客はラゼルとハイノの二人のみ。
この露天風呂の施設も宿泊者専用の為、他の客は見当たらない。
「やっぱりさ、どこに行ってもうちらの2人しかいないね…」
「そうね、
こんなリゾートなのに、人っこ一人いないのは変じゃない?」
「うーん、まあ今はお風呂入ろ!」
体を洗い終わった2人は奥へと進む。
すると…
「え、すごーい!
浮いてるお風呂だよ!」
浴槽は支えが一切無く、宙に浮いていた。
浴槽から溢れたお湯が下のお風呂に滝のように流れている。
ラゼルは浮いている階段を駆け上がり、そこのお湯に浸かった。
ハイノは遅れてやってきて、ラゼルの隣で浸かった。
「あそこイレクトロシティだよね!
ここから見たらめっちゃ青紫だね!
ネオンで輝いててビッカビカ!」
ラゼルは泳いで浴槽の縁に両手で捕まると、遠くに見えるイレクトロシティを指さした。
ここから見るイレクトロシティを堪能すると縁から手を離し、仰向けで泳ぎ空を見ながら言う。
「あの大きい緑のはグリューンだもんね!
皆今何してるのかな〜」
「…はぁ、帰ったら仕事の続きやんなきゃ…」
「仕事って、惑星の調査じゃないの?」
「それ以外にあるのよ、パソコンでやるやつが。
なんならそっちが私の本当の仕事よ。」
「そうなんだ〜」
「戦士たちの報告書の確認とか、レツェノイルと周辺の脅威の分析データの整理とか、いろいろ。」
「へえー、仕事した後って紙とか出さなきゃ本来ダメなやつなの?」
「ものによるけどね。
まあ、あんたは頭がそんなんだから必要ないでしょうけど」
「なんだと〜!?」
「帰ったら、あなたが買ってきてくれたのがテーブルで待ってるわよ」
「ハイノが楽しみなだけでしょー」
「どっちかといえばそう
あ、大事なこと思い出した!
ちょっと取りに行ってくるわね」
「どこに!?」
ハイノは浴槽から上がって屋内に入り、数分後には両手に何かを持ってラゼルの元へ帰ってきた。
「はい、あんたはこれ」
「これ何?」
「お酒よ。
本当はダメだけど今日は私たち2人しかいないから、サービスだって」
「わーい!うちのは何?」
「あなたのはカクテルよ。
私のは冷酒。」
「れいしゅ?」
「はいカンパーイ」
ラゼルはカクテルを握ったまま不思議そうにハイノの顔を見つめるが、
ハイノは強引にお猪口をラゼルのカクテルにカツンと当てて口に含んだ。
「やっちゃダメなことやってる気分だね」
ラゼルはカクテルを握って遠くの景色を見ながら言った。
「あ…やっちゃダメなこと本当にやってない?
特にうち…」
「んー?」
「宿までどうするの?徒歩?」
「あー…そうね。」
「ちぇ〜、歩くのめんど〜」
2人は景色とお酒を堪能すると風呂から上がって服を着て施設を出て、沢山の木々が生い茂る道路の縁を歩いて宿へ向かった。
するとラゼルは歩きながら目の前に大きな赤いディスプレイを表示し、何かを操作し始めた。
「ちょっとー?ゲームなら部屋着いてからやりなさいよ」
「いやいやそうじゃなくてさ、やっぱり変だと思って調べてたんだよ
さっきハイノは、あの宿の口コミそこまで悪くないって言ってたじゃん?
今レツェマップ開いて宿の口コミ見たんだけどさ…
これヤバくない?何が起きてるの?」
「濁らさないでさっさと言って頂戴?」
「あの宿、星1のレビューがめちゃくちゃ付いてるよ?」
「え!?ちょっと、私にも見せて!」
ラゼルはディスプレイで設定を変更してハイノにも見れるようにした。
「本当だわ…しかも全部最近じゃない…」
宿の口コミ一覧には、比較的最近に書き込まれた星1のレビューが死ぬほど並んでいた。
「最低。ここで仕事してる奴ら全員捕まれ」
「ここの温泉に浸かると回路がイカれて変形できなくなるってマジ?気持ち悪すぎ」
「エリツァイ仕事しろやゴミ共が」
「キャストグリッドから来ました。星1。」
「なにこれ…どういうこと…」
「ねえ、キャストグリッドから来た人がいるわ
そこになんか動画上がってるんじゃない?」
ラゼルはディスプレイを操作して動画配信サイトのキャストグリッドを開き、宿に関する動画を検索した。
すると、ある動画だけとんでもない数の再生回数がついていた。
「800万再生超えてんだけど!?なにこれ!?」
とんでもない再生回数を記録していたのは「裏路地卍ダークサイド」という名前のチャンネルだった。
その問題となっている動画は、
「【緊急検証】犯罪組織のアジト!?山奥の隠れ家リゾートの『ヤバすぎる正体』を暴いてきた【裏路地卍ダークサイド】」
というタイトルだ。
ラゼルは動画を再生してみる。
「おい、みんな見てるか?『裏路地卍ダークサイド』だ。
今日俺は、ある『極秘の山奥リゾート』に来てまーす!
……で、知ってるか? ここ、ただの宿じゃねぇんだわ。
宿の奴らが実はヤベえ犯罪者集団で、レツェノイルを滅ぼす為の超兵器を開発してるらしいぜ!?
俺が極秘に入手したこの写真に写ってるやつがそう!ヤバくね!?www
しかもよ、ネットの裏情報によれば、
そこの温泉には特殊な電磁波が流れてて、浸かった瞬間にアンドロイドの回路が焼き切れて
『二度と変形できなくなる』っていうヤバい呪いがあるらしい。
俺の考察だとその温泉は、アンドロイドを無力化して、例の計画を進める為のものだと思う!
……なあ、すごくね!?
って訳だから、お前らは俺とは違うんだから、
死にたくなければ来るんじゃねえぞ! 」
動画の中には、見覚えがある男が映っていた。
髪色、髪型、服装は違うも、
ハイノと待ち合わせしてた時に凸りに来たヤンキーの一人だ。
「うち、コイツ知ってるよ!
コンビニでハイノを待ってた時、コイツと仲間っぽい3人が襲ってきたんだよ!」
「ああ、だからあの男達がボコボコになってたのね。
動画の男、私達が目的だったりしてね。
だから私達しかいないのよ、ここ。」
「ネットは大荒れだけど、宿の人たちは普通にいい人だけどね?」
「そりゃ、宿の人たちは仕事だもの。
嫌でもここに来て働かないといけないのよ。
エリツァイが構ってくれないのも、なにか理由があるんじゃないかしら」
「あそこの綺麗なお風呂今さっき浸かったけど、
耳はいつも通りデバイスに変形できてるよ?
まあ、ネットの件はどうでもいいから早く帰ろ!」
「ちょっと!?置いてかないで!」
ラゼルはそう言ってダッシュで宿へ向かった。
「よっしゃ!ただいま!おやつおやつ♪」
「もう!一人で先行っちゃうんだから!」
ラゼルは先に部屋に着くと洗面台に行って手を洗い、座卓の上に置いてあった瓶をハイノの席の方へずらした。
「はい、ハイノのお酒」
「ちょっと休ませて…」
「さっき露天風呂入ったのに疲れてやんの〜!」
「もう、あんたは…」
ハイノが浴衣に着替えて席に座るのを見て、ラゼルも真似をした。
「あ!うちも着る!」
ラゼルも浴衣を着て座椅子に座り、ハイノは弁当と瓶を開けて小さなコップに中身を注いだ。
「なのそれ〜白くてとろとろしてる」
「にごり酒よ。あんたは興味なさそうだから言ってなかったけど」
「またお酒飲むんだ!」
ラゼルは口角を上げてニマニマしながらハイノの方を向いた。
「別にいいじゃない。今だけよ。
頑張った自分と、これから頑張る自分へのご褒美よ。」
ハイノは小さなコップに注いだ中身を口に含んだ。
バリバリバリ!
ラゼルはポテトチップの袋を開けて、コーラも開けるとポテトチップを口に入れてパリパリと砕いた。
「あぁ、カロリー凄そうね…」
「へへん!♪これもうちへのご褒美!」
口の中でポテトチップを砕きながら、弁当を開けて唐揚げと白米を口に突っ込んだ。
2人は弁当を食べ終わり、その頃ハイノは頬をほんのり赤く染めていた。
ラゼルはある事が気になり始めたのか、顔に浮かんでいた笑みを消してハイノを見つめると問いかけた。
「ねえねえ、ハイノって過去どうしてたの?」
「ああ、そういえばあんたには言ってないかしら」
「うん、名前とヘクスレブラの幹部ってことくらいしか知らない」
ハイノはにごり酒を口に含んで飲み下すと、ラゼルに打ち明けた。
「私、元々は普通のハキアマーダー人だったのよ。
時期で言ったら、黄金時代中期出身よ。
今で言うラフォス山地で弓矢を使って狩りをして生活してたわ。
一人の男の子の子供がいたんだけど、その子は独り立ちしちゃって、一人で山奥でひっそり暮らしてたの。
ある日、いつもの様に暮らしてたら、急に知らない人が私のところに来て、
「私達の所に来ませんか?」って言われたの。」
「それって、宇宙戦士の人?」
「ヘクスレブラの社員よ。私を呼びに来たの。」
「へえ、なんで?」
「…」
ハイノはまたにごり酒を少し口に含んで飲んだ。
「あなた、姿神様でしょ?
普通の人は神様の姿が見えないんだって?」
「うん。そうだけど?」
「あなたが私に正体明かしてくれたあの時、確信したのよ。」
「なにを?」
「私の先祖、実は…
セフェリア様と血が繋がってるの。」
「セフェリア…って?」
「”最高神『セレスティア』様の子孫”よ。
レムノールに大きな城があって、そこで暮らしてる王女様よ。
私、セフェリア様とは親戚なの。」
「え…!?
あの、もっとわかりやすく言って?」
「私、最高神セレスティア様の子孫なの。」
「えぇ!?そうなんだ!?
セレスティア様の子孫なのに、こんなとこで何してるの?」
「私の先祖は、お城を追いやられたの。
それで追いやられて行き着いた先がラフォス山地。」
「なんかやらかしたの?」
「私が知るわけないじゃない!
とりあえず、ヘクスレブラの社員が私をスカウトしに来たのは、私がセレスティア様の子孫の一人だからよ。」
「そうなんだ〜!
確かに、ハイノって髪の毛白いし目も紫で綺麗だもんね」
「あなた、セレスティア様とは知り合いなんじゃない?
私の始祖様って、どんなお方なの?」
「ん〜?」
ラゼルはコーラを飲んでそのまま横になった。
「逆に、あなたは何者なのよ?
そもそもハキアマーダー人じゃないんでしょ?」
「んー…そうだよ」
「私は過去の事話してやったんだから、今度はあなたの過去を教えて頂戴」
「うちはね…ハキアマーダー人じゃないどころか、
そもそもエーアスト内で生まれてないよ
“チキュウ”っていう青くて綺麗な星があったんだけど、その星出身なの。」
「聞いたことないわ…そんな名前の星…」
ラゼルはゆっくり起き上がると、髪が茶色い女の子の姿へ変えた。
「ママと2人で暮らしてたよ」
「…私と同じ母子家庭だったのね?」
「うん。
でも、訳あって貧乏で、
うちがいなくなればママはうちの分のお金使わなくて良くなると思って、家を出たの。
そしたら…
一人の優しそうな男の人がうちのところに車を降りて歩いてきて誘ってくれたから車に乗ったんだけど…」
女の子は俯き、憎しみのこもった表情を浮かべたまま座卓を睨んだ。
「そこが…うちの墓場だった。
両手首を手枷に繋がれて、そのまま3人の男に体も心もボコボコにされて殺された。」
「あなた、既に”死”を経験してたのね。」
「うん。それで気がついたら…生き返ってた。
その後、セレスティア様に力を貰った。
その”力”を貰ってから、うちは姿神アルティになった。」
「壮絶な人生だったわね。」
「…アルティの姿はうちの2つ目の姿なんだけど、3つ目に貰った姿が『ラゼル』なんだよ!」
女の子は顔を上げてハイノの顔を見ると、ラゼルのように笑みを浮かべた。
「姿神様は自在に姿を変えて下界に降臨するって神話で見たけど、
まさに”ラゼル”の姿がそれなのね?」
「なにその神話」
「あなた、知らないの〜?」
2人は互いの過去を明かし、楽しそうに話し合った。
タン…タン…タン…
部屋の外から二人組の足音が聞こえる。
女の子は瞬時に察知し姿をラゼルへ変え、部屋の入り口の方を向く。
第四章 偽りの支配者
ガチャ!
扉は鍵がかかっているのにも関わらず解錠され、部屋に二人の男が侵入した。
『裏路地卍ダークサイド』に出ていたインフルエンサーのヤンキーだ。
背後には謎の機械を持った太った大男が、ニヤリと口角を上げながらラゼルを見た。
「おお!いたいた♪
俺のペットのラ・ゼ・ルちゃん♡」
ヤンキーは卑猥な表情を向け頬を紅調させると、ラゼルを笑顔で見ながら言った。
後ろにいた大男は謎の機械を操作した。
ラゼルは右腕を変形させようとした。
が…
「変形できない!?」
ラゼルは焦慮に駆られ、右の前腕を左手で握ると二人の男を睨んだ。
先ほど、キャストグリッドでヤンキーが言っていた事が頭をよぎった。
そこの温泉には特殊な電磁波が流れてて、浸かった瞬間にアンドロイドの回路が焼き切れて
『二度と変形できなくなる』っていうヤバい呪いがあるらしい。───
いやいや、そんな訳ない!温泉施設から出た後、普通に耳がデバイスに変形できたんだ。
違う違う、コイツの嘘だ。
ラゼルは壁に背を当て座り込んでいると前に腕をやり、ハイノは庇うように立った。
大男が持つ謎の機械のせいだと予想したハイノは、睨みながら男の元へ駆けようとする。
「そうはさせねえ!」
ヤンキーはハイノを阻止しようと飛びかかる。
「ぐっ!?」
ハイノはヤンキーを蹴飛ばし、その一瞬の間に大男の謎の機械を奪って、床に思い切り叩きつけると思い切り踏みつけた。
ガチャン!!!
謎の機械はハイノに踏みつけられ粉々に破壊された。
「チッ!!このクソ女が!」
ヤンキーの為に折角作った機械が瞬く間に破壊され、大男は鬼のような形相でブチギレた。
謎の機械が破壊されたのを見て、ラゼルは顔色が変わった。
ラゼルは立ち上がり、右腕をグライシングレブレイドに変形させた。
ハイノも、同じく腕を剣に変形させた。
2人の超魔導刃が ヴン と形成され輝く。
蹴飛ばされたヤンキーは、床に粉々にされた大事な機械と、
変形できるようになってしまった2人を見て焦燥した。
「や、やめろ!!!」
ムキになったヤンキーは全力で目前に迫り来る。
ザン!!!
ハイノの剣でヤンキーは体を真っ二つに切断された。
その間に、ラゼルは大男を魔法で拘束し、ロンボジオンに転送した。
「…うっ……グッ……!」
ヤンキーは2つに切断された断面同士がくっついて出血が収まると、躍起になり発狂した。
「あああああああああああ!!!!!!」
もう少しで長年の夢が叶うのに!!!
元々は白髪の美女が目的だった。
あの時は偶然起きた。
やらかして事件を起こした知り合いから聞いた。
「すんごい美人な白髪の美女が来た」
って。
自分で盗聴器を作って、わざと事件を起こした。
そしたら、あの美女がやってきた。
彼女は強力なソルダーアンドロイドだ。
でも、俺は再生するんだ。死なないんだ。
恐れず前に出て、思い切り近づいて、彼女の服に向かって盗聴器を投げた。
俺は再生する生体アンドロイドだ。
だから寿命がアホみたいに長い。
そこらへんのやつらの何代、何十代分も生きる。
だから、最初に知り合いから美女のことを聞いた時、思ったんだ。
「これは、チャンスだ!」
あの美女を俺の彼女にすれば、俺の人生は安泰だ!
超頑丈で、人型の可変超兵器。
自分の人生を潤す為なら、なんでもする!!
仕掛けた盗聴器は計画通りに彼女の服にくっつき、彼女は気づかずグリューンへ帰還した。
あのような兵器が作れる技術力があるなら、
今後は、もっと強力な防衛技術を作り出すかもしれない。
今のうちにと思って、彼女に盗聴器をしかけて、再び出会える日をずっと待った。
しかも、彼女に盗聴器を仕掛ければ、いろんな情報が聞けるかもしれない!
でも、ある時から違う存在が現れた。
『ラゼル』っていう新たな兵器が作られたらしい。
あの美女の独り言を聞けば聞くほど、俺の照準は美女からラゼルへ移った。
とんでもない活躍ぶり。金バッジを手に入れて上級幹部にもなった。
しかも、新しく大きな変形機能が2つも追加された。
手に入れるなら、アイツだ!
俺の…”召使い”だ!
アイツさえ手に入れれば、俺の人生はパラダイスだ!
俺専用の超高速バイク!!
俺専用のジェット!!!
俺専用の可愛いボディーガード!!!!
長い時を経てやっとあの美女と出会える時は来た。
でも、欲しいのはあの美女じゃない。
“ラゼル”だ!!!
でも、その夢は今にも崩れ落ちて、風に吹かれる砂のように消えようとしていた。
「ああああああああああああ!!!!!」
ヤンキーは躍起になって2人に飛びかかった。
その表情は理性を失っていた。
自分の夢さえ叶えばそれでいい!
そのことしか頭に無かったからだ。
ザン!!!
男はラゼルに体を切断された。
『ねえ、いい事思いついちゃった!』
ラゼルはハイノにデバイスの通信機能を使って話しかけた。
ラゼルはハイノを見てニヤリと笑うと、
男を滅茶苦茶に斬り刻み始めた。
本当なら今すぐに”本当に殺してやる”ことはできる。
でも、そうしたらもう終わってしまう。
デバイスの仕組みも何もかも、
機密情報を知られてしまったからには、始末しないといけない。
こんな危険な再生生体アンドロイドを生かしておくわけにはいかない。
ラゼルはグライシングレブレイドで男を斬り刻む。
頭からつま先まで、全部。
男の体は、斬られてはくっつき、斬られてはくっつくを繰り返す。
未だ嘗て経験したことのない、言葉では表しようがない激痛に襲われていた。
本当ならもうとっくに死んでるだろう。
でも、この苦しみから逃れることはできない。
再生してしまうからだ。
彼女の強さは知っている。
再生生体アンドロイドを殺すことができるのも知っている。
夢どころか、本当に人生を終わらされるかもしれない。
男の脳内では、さまざまな感情がぐちゃぐちゃに混じった。
俺の夢が!!!俺の…願望が!!!
ラゼルは斬り刻むのをやめた。
ラゼルが斬り刻むのを止めた途端、男の体は再び元の姿に再生した。
「もういいや、さよなら」
ラゼルは男を赤く輝く立法体の空間に閉じ込め、
グライシングレブレイドに変形している右腕をアンルグニレイガンに変形させた。
閉じているレールを開き、立方体の中にいる男へ銃口を向ける。
「や、やめろ!!!!やめろ!!!!」
男は、泣いていた。
立法体に閉じ込められ、両手で叩き、出せと催促する。
2つの目からは、顎から滴り落ちるほどの涙が流れていた。
レイガンのレール上で、エネルギーが収束し、圧縮されていく。
赤い稲妻が沢山走る。
男は、アンルグニレイガンのレール弾の強さを勿論知っていた。
バカみたいに強い、銃みたいな兵器だ。
とても広い範囲を消し飛ばすレール弾。
それを今、自身に向けられていた。
殺される!!!人生が終わってしまう!!!
あのレール弾を当てられたら、勿論無事では済まない。
レール弾を使うのは”再生生体アンドロイドを本当に殺す為”だ。
しかも今、狭く小さな立法体に閉じ込められている。
この狭い空間に50000㎡を消し飛ばすレール弾をぶち込まれたら、何もかも残らない。
俺の細胞も、一つも残らない。
ラゼルは今、男を終わらせる為に銃口を向けている。
男は顔にある穴という穴から液体を垂れ流した。
立法体の内側から壁を叩く。
そんな姿の男を、ラゼルは真顔で見つめていた。
「私に盗聴器を仕組んでくれたお礼よ!
私達からあなたに用意できる、唯一のプレゼントよ。
さあ、受け取って!」
レイガンのレール上で、赤い稲妻が迸る。
大きく開いたレールの中心から、煌煌と輝く赤いエネルギーが、収束され、圧縮され、加速されていく。
2つの大きな赤いレールで加速され、超光速でレール弾が発射された。
男の最後はあっという間に訪れた。
狭い立法体にぶち込まれた強力な超魔導弾が爆発し、あたり一帯を閃光が包み込む。
赤い立方体は、内部で50000㎡を消し飛ばす爆発が起きていてもピクリともせず、ただ男と爆発を閉じ込めていた。
暫くして、輝きが次第に消えていく。
立法体は、輝きが消えてもその場で変わらず鎮座していた。
中に閉じ込めた男は…
…消えた。
第五章 近づく距離
2人はその場で尻をついた。
ラゼルは青ざめて、レイガンのレールを閉じて下に下ろして ゴトッ と鳴らして大きなため息を付いた。
「はぁ…気持ち悪…」
ラゼルからしたら、あの男の執着と、再生する所がとにかくおぞましかった。
いやらしい目で自身を見るあの顔、
どんなに斬り刻んでも、グツグツと沸騰する溶岩のように波打ちながら断面の細胞が凄まじい勢いで分裂と増殖を繰り返し、元の姿に戻るあの光景…
あの再生能力さえ、自身にたいして執着しているのを表しているようにも見えた。
「きんも…オエ…」
すると、2人のデバイスにヘクスレブラから通信が入った。
19時までにその場を離れて、人の目につかない場所に移動してほしい とのことだった。
それを聞いたハイノは立ち上がる。
ラゼルは右腕を元の腕に変形させて立ち上がると、
2人は顔を見合わせた。
「まだ1泊すらしてないけど、移動しましょうか。」
2人は宿のロビーへ移動する。
すると、そこで縄で拘束され口をテープで塞がれている従業員を見つけ、すぐさま助けた。
二人は従業員を助けると、
ハイノはカウンターに元々泊まる予定だった日数分と食事と施設の料金を合わせた現金と部屋の鍵をカウンターに置いて、宿から出た。
「いい場所知ってるの。
今体どう?酔ってる?」
「ううん、全然平気」
ハイノは念のため、ラゼルが摂取したアルコールの量をデバイスで調べた。
「え?
あなた、さっきカクテル飲んだわよね?」
「うん、そうだけど?徒歩で行こ?まだ間に合うよ?」
「あなたからアルコールが検出されなかったわ。
どこにやっちゃったの?」
「えー?そんなわけないじゃん!
さっきカクテル飲んだよ?」
「いやいや、私のデバイスは[サイクルフォーム・ジェットフォーム変形可]って書いてあるわよ?」
「えー?意味がわかんないんだけど?さっきしっかり飲んだよ!?」
「あなたの体がバケモンなのよ。
ほら!さっさと私を乗せて!」
さっさと変形しろと催促するハイノ。
でもラゼルは信じず、ハイノの要求を拒否する。
「嫌だよ!こんな所で捕まりたくないもん!
ハイノのデバイスが壊れてるんだよ!」
「んな訳ないじゃない!
デバイスの情報は”絶対”よ!
私のデバイスだってほら!
[問題無し 正常に稼働中]って言ってるわ!
アルコールが全く検出されないんだし、私のデバイスだってこう言ってるんだから平気よ!問題ないわ!」
「えー…本当に?
これで捕まったらハイノのせいだよ?」
「問題ないって!デバイスに詳しく聞いてみたのよ。
「「アルコールがしっかり含まれてるカクテルを飲んだ後なんだけど、変形したら飲酒運転になる?」
って聞いたら、
[アルコールが全く検出されない以上、法的には問題ありません。]だって!」
「ほんとにー!?信じるよ!?」
ラゼルはとても嫌そうにジェットフォームに変形すると扉を展開し、ハイノを乗せた。
ラゼルはハイノが教えてくれた座標へ向かって空を駆け抜けた。
目的の座標に近づいてきた。
イレクトロシティの中だ。
ラゼルは高度を落として着陸すると、扉を展開してハイノを降ろした。
自身は人型に変形して後を追う。
ハイノはまた違うホテルに誘ったようだ。
本日2回目のチェックインを済ませ、二人はエレベーターに乗り込む。
「またホテル?」
「1泊するだけよ。避難する為でもあるのよ
なんで時間まで指定してくるのかしらね?」
「もしかして、19時からなんかやるのかな!?
クイズ番組とか!」
「そんな訳ある?だって、あの口ぶりよ?
クイズ番組は絶対ないわ」
そう話をしていると目的の階に到着した。
2人は奥へ進み、部屋の鍵を開けて中へ入った。
「あと10分だね!テレビつけて待機してよっと!」
ラゼルはダッシュでテレビをつけて、椅子に座って画面を眺め始めた。
「なーんか、子供みたいね…
あなたって普段からそんな感じなの?」
「…え?何が?」
「なんでもないわ。」
ハイノはカーテンを開けてラゼルに手招きをした。
「ほら、番組はまだでしょ!外見てみて!」
「んー?」
ラゼルは椅子から降りるとハイノの元へ駆け寄る。
「あ!ほんとだ!いい景色!
全部のビルが光ってるね!イルミネーションみたい!
この景色、いつも見てるはずなのにね。
こうやってイレクトロシティのホテルに泊まることないからさ。なんか新鮮。」
ラゼルは真っ赤な瞳を輝かせて、沢山の星が輝く空と、輪郭のネオンと窓が輝く沢山のビルを眺めた。
「あ、もうすぐ19時よ!」
「なんだって!?」
ラゼルは大急ぎで外の景色を見るのをやめて、テレビの前へ移動した。
19時が過ぎて少し経った頃、番組の雰囲気が変わった。
「番組の途中ですが、ここでニュース速報をお伝えします。
先日、動画配信プラットフォーム『キャストグリッド』上で、山奥のリゾート施設に関する虚偽の情報を流布し、数百万回再生を記録していた迷惑系チャンネル『裏路地卍ダークサイド』についてです。
当該チャンネルで過激な動画を配信していたインフルエンサーの『ハルト』こと、テナクス・トラオリム被疑者について、治安維持組織エリツァイ・ヴァフェティクズおよび関係機関より新たな発表がありました。
今日午後18時過ぎ、テナクス被疑者を含むグループが、該当の山奥の施設周辺にて、2人のヘクスレブラ幹部社員に対し、手製の多領域情報処理ユニットを用いて不法に襲撃・拘束を試みました。
現場での応戦の際、テナクス被疑者が持つ特異な再生・回復体質を完全に無効化し、再起不能とするため、防衛規定に基づく厳正な排除(完全処分)が執行されました。
現場の検証により、テナクス被疑者が動画内で主張していた『変形能力が消滅する』などの情報は、すべて視聴者を引き付けるための完全な虚偽(デマ)であったことが確認されています。
捜査関係者によれば、テナクス被疑者らは、『ヘクスレブラ幹部社員を自らの配下に収めることで、私欲を満たし人生を一獲千金で潤そうという極めて身勝手な願望』から今回の計画を立案。
発見されにくい長期的な工作や、ネットを利用した世論誘導(デマの流布)を行うことで、目的を確実に達成しようと執拗に工作を重ねていたことが判明しています。
しかし、その幼稚かつ身勝手な私欲に基づく襲撃は、実際の幹部社員の圧倒的な戦闘力の前に完全に返り討ちに遭い、結果として自らの首を絞める形となりました。
エリツァイ・ヴァフェティクズおよび関係各所は、『悪質なデマの拡散、治安維持に関わる幹部社員への襲撃行為は、いかなる理由であっても厳に処罰する。最悪の場合、組織の規定に基づき徹底的に排除する』と強く警告しています。
今回の騒動によって影響を受けた宿泊施設については、虚偽の情報による風評被害が懸念されており、施設の利用を検討する際には、動画や口コミの内容だけで判断せず、情報の真偽を慎重に確認することが重要です。───」
今さっき起きた出来事のニュースが、当事者である2人の目の前で流れた。
「ねえ、19時までに人目のつかないところに移動しろってさ、ニュースがやるからってこと?」
「…そうみたいね」
「な〜んだ!クイズ番組やらないんだ!」
ハイノはリモコンを手に取ると番組表を確認する。
「ねえ、19時から本当にクイズ番組やってるわよ!」
「え!?ほんと!?回して!」
ラゼルはニュースや景色そっちのけで、クイズ番組に夢中になった。