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第1章 離れ離れ
世界滅亡の危機が過ぎ去ってから数日後。
ラゼルはトレーニングを終えて、総長の部屋でくつろいでいた。
いつもの様に過ごしていると、総長が部屋に帰ってきた。
「おかえり〜」
そう言って総長を見ると、少し申し訳なさそうな表情をしていた。
「突然なんだが…
暫く『ラゼル』にはなれない。
今日から私が良いと言うまで変身するのは控えてくれ」
「…」
突然総長の口から放たれた言葉を聞いてラゼルは唖然とした。
「な、なんで?うちなんかした?」
「メンテナンスだ
できるだけ早く終わらせるように言っておいた。」
何故?どうして急に?
つい今日まで普通にトレーニングできていたのに?
(なんか変な事しちゃったのかな…)
ラゼルは元の女の子の姿へ変え、残念そうに下を向いた。
翌日。
女の子はいつもの様にトレーニングをしに、ポッドがある部屋へ向かう。
いつもはラゼルの姿でトレーニングをしていたが、この姿では仮想空間に行ったことないし、ダンベルを持ったこともない。
部屋に付くと空いているポッドに入り、いつもの様に設定をすると、ポッド内で準備運動をする。
扉が開く。
彼方に沢山の魔物共が見える。
女の子は両手の平からアトゥランスを形成して柄を握ると、魔物共に向かって走り出した。
大勢の魔物共が襲いかかろうと飛びかかるも、女の子は全て避ける。
魔物共の隙間を高速で駆け抜けながら、両手のアトゥランスで縦横無尽に斬り裂く。
ボスに向かって大きく飛び上がり、いつもの様に四つ切りにし、地面に着地する。
「ふぅ…」
アトゥランスを握っている両手を下ろし女の子が後ろを振り返ると、
乾いた土だった大地が一面緑で溢れかえっていた。
沢山の草や花や木が生い茂り、
魔物との間を駆け抜けた所は川になり、
ボスが立っていたところには、100mを優に超えていそうなほど巨大な大木が鎮座していた。
それを見て、女の子は自分の並外れた特別さを改めて思い知る。
そういえば破壊神を始末した際も、
破壊神が倒された所に大木が生えて、其処が姿神が降臨した場所だって噂になって、自分を祀る社ができたりしたんだっけ。
ただ、此処は仮想空間。
自分がポッドにワープしたら、折角できた川や沢山生えてきた植物達が無かったことになるのは申し訳ない気もする。
と思いつつ、女の子はポッドにワープしてリセットする。
再度現れた魔物共目掛け、女の子はまた勢いよく飛び出す。
川のでき方や草木の生え方は毎回異なり、違う姿を見せてくれる。
数回程繰り返した所で、女の子は少し飽きてきた。
ボスを倒してポッドにワープすると、女の子はポッドから出ずそのまま其処に胡座をかいて座り込んだ。
両手をクイクイと動かす。
すると彼方にいる魔物共と其のボスは其の場でドカドカと自身の体から衝撃を放ち、一匹残らず大地から消え去った。
木や花は生えず、草原だけが広がった。
木や花が生えた場合は、自分自身とアトゥランスが関係しているんだろう。
それでも、乾いた土の大地よりはマシか。
リセットすると、次は上空から数え切れない程の火球を落としてみる。
火球は大地にズドンズドンと音を立てて衝突し、魔物共を巻き込む。
炎関係の力を使った場合はどうなるだろう?
炎と魔物の姿が消えると、其処にはそれなりの大きさの岩が鎮座していた。
その後も、リセットしてはいろんな力を使って遊びながら魔物共を始末した。
何度か繰り返すと、女の子は立ち上がり基地へ帰還した。
基地に戻ると次はいつものトレーニング場へ向かう。
この姿ではダンベルを持ったことが無い…
いつもの様に管理人にダンベルを持ってきてもらおうと思ったが、まずは自分がどこまでの重さのダンベルを持てるのか確認することにした。
一先ず、アンドロイド用の一番軽いダンベルを右手で持ち上げてみる。
全然平気だ…
じゃあ次は少し飛んで数百トンのダンベルを持ってみる。
此れもそんなに重くないな…
ソルダー用のダンベルはやはり物足りなかった。
いつもの感覚で問題なさそうだ。
左胸に金のバッジを付け、管理人に
「いつもここでトレーニングしているラゼルの者です」
と、金のバッジを見せて管理人に言う。
管理人は念の為デバイスで本人か確認する。
女の子と『ラゼル』は同一人物だった。
この子は体を使い分けているのか…
姿神ということまでは分からないようになっているが、管理人はそんな事は知らない。
管理人は其処で初めて、体を使い分けている戦士の存在を知った。
特注品の1400トンのダンベルを両手に持ち、屋外に出て全力で走り出した。
『ラゼル』という躯体でなくとも、最終的にはいつもと同じトレーニングが行えた。
でも、やっぱりあの姿が恋しい。
腕の武器で魔物共を斬り裂いてぶっ飛ばしまくりたい…
あくまでも”メンテナンス”だ。
永遠に失う訳では無い。
女の子はご飯を食べてお風呂に入り、ベッドに入って眠った。
次の日も、その次の日も似たようなトレーニングをして一日を終える。
『ラゼル』という躯体になれなくなって日が経つ毎に、『ラゼル』という躯体への恋しさが倍増していく。
いつになったらまた『ラゼル』になれるんだろう…
そんな恋しい生活が2週間ほど続いたある日だった。
第2章 地を駆ける漆黒
前日や前々日と同じ様にトレーニングしようとトレーニング場に向かっていた途中だった。
背後から此方に向かって走ってくる音が聞こえ、女の子は振り向く。
総長が笑顔で追いかけてきていた。
「メンテナンスが終わったぞ!トレーニングしに行こう!」
女の子は少しの間沈黙して総長の顔を眺める。
「もう、ラゼルになってもいいの?」
「ああ、勿論!」
総長の返事を聞いた途端、女の子の瞳が輝いた。
女の子は早速ラゼルの姿に変身した。
でも、パッと見変わった感じはしない。
「違和感あったりするか?」
「ううん、特に何も!」
「それはよかった
いつもの仮想空間に行く所だ」
「やった〜!」
総長と別れ、ラゼルはニコニコ笑顔でスキップしながらポッドがある部屋に向かった。
部屋に着いて、ポッドに入る。
すると、いつもステージや魔物の設定をするパネルのUIが僅かではあるが変化した。
魔物掃討モードの欄がプルダウン化し、そこから一つ選べる選択肢が増えた。
「『サイクルモード』ってやつが増えたよ???」
ラゼルは新たに増えた選択肢に困惑していた。
総長は総長室から通信をする。
「私がメンテナンスと言ったのは、嘘だ。
実は、ラゼルの全身が変形するように改良したんだ。
それの一つが『バイク』だ」
最初は普通に聞き間違えかと思った。
「うちの体が全身変形できるようになったってこと?」
「そうだ
今日からはその新しい形態のトレーニングをしよう
ステージはLevel1だ」
ラゼルは総長に言われるがまま、ステージを1にしてトレーニング開始した。
扉が開くと、
地面と遥か上の天井に格子状のグリッドが広がっており、
正面には、2つの真っ直ぐな道がある。
が、道を辿って端を見ると半円状にカーブしていた。
陸上でよくある『オーバル』のトラックをとても長〜く引き伸ばしたような道がある。
「お前の目の前にある道がこのレベルのステージだ。
お前みたいな初めて変形して走る奴や、久々に変形する奴がリハビリしたり、単純にタイムアタックをする時とかによく使うステージだ。」
「なんでこんなに細長いの?陸上の競技とかではもう少し短いのに」
「道の長さや形状はポッドのパネルで調整できるが、それはお前がまず変形してまともに走れるようになってからだな
私はできる範囲で答えてやるから、頑張ってくれ」
ラゼルはポッドから出て数歩歩くと、其処で意識を集中させた。
わかりやすいから、少なくとも腕の時よりは簡単だ。
無機物に全身が変身するのはこれが初めてではない。
とは言っても、バイクはどっちにしろ初めてだが。
ラゼルは立ち止まって少しすると、全身の輪郭が人型からバイク型に変わっていく。
全長約3mのバイクに見事変形してみせた。
「できたよ!っおわああ!!!」
ラゼルはバイクに無事に変形できて喜ぶも、バランスを崩して横にドシンと転倒した。
「ちょっと待って!起きれない!どうすればいい!?」
足の部分は前輪と後輪のみで、人間やその他の動物のような足とは構造が全くと言っていいほど異なる。
手足(?)をジタバタすることなんてできず、
足の部分が急に前後の2つのみになり、体の感覚の違和感が物凄い。
わかりやすく言えば、両方の前腕と両方の下腿をそれぞれ縄でガッチリ結ばれて拘束され、その状態でうつ伏せにさせられたようなものだ。
しかもそんな状態の手足で立ち上がり、走れと言うのだ。
更にラゼルの場合、構造上車輪が回転しない。
なのに「走れ」と?
どうやって!?
起き上がれなくて、全く動かせない足にパニクるラゼル。
ラゼルは総長に助けを求めようとするが、思いとどまった。
そもそも相手はバイクになったことなんてないんだ。
質問した所でまともな回答なんて帰ってこない。
ラゼルはとりあえず起き上がろうと、横に倒れたままガタガタと体を揺らす。
暫くすると足(?)の感覚に少しずつ慣れ、やっと起き上がることができた。
「っん”〜〜〜っ、よ…い…しょっ!
見て!立てたよ!どうすればいい!?」
「おお!じゃあ次は目の前の道を走ってみてくれ!」
どうやって!?
ラゼルはとりあえずそれっぽく立ち上がって頑張ってみる。
でも、少し浮くだけだった。
浮いても、前に進まなければ意味がない。
ラゼルはそれっぽく力を入れてみる。
「ん〜〜〜〜!!!!
ヤベッ別のものが出そう!!」
ラゼルが口にしたその瞬間。
ゴッ!!!!!
力みすぎて、後ろの左右にあるマフラーから思いっきりエネルギーを噴き出し、急加速して超高速で彼方まですっ飛んでいった。
「ああああああああああああ!!!!!」
ラゼルは超高速で地面を駆けながら絶叫する。
慌てていると、前輪を傾けた途端その方向に進んでいった。
「おお!?」
ラゼルは力を少し緩め、次のカーブまで来ると右へ前輪を傾ける。
すると車体はその方向へ少し傾き、右へ方向を変えた。
ラゼルの場合は、それぞれの車輪の魔導エネルギー部分でホバーし、
車輪と車体の吸気口だけでなく、マフラーがスラスターのような役割をし、それぞれが推進力を得て前に進む。
走る…というより、低空飛行しているようなものだ。
気がつけば、ラゼルはトラックを3周、4周と、走れるようになっていた。
「こんな感じ?」
「そうだ!走れてるぞ!
基本はこれでマスターできたな!もう少し難しくしてみよう」
総長がそう言うとラゼルは元の体へ変形して戻り、ポッドに入った。
パネルでLevelを2に変更し、トレーニングを開始する。
扉が開くと、さっきは青色だった世界が今度はピンク色に染まっていた。
目の前に道のようなものがあるが、形がおかしい。
パッと見た形はオーバル。
直線部分は水平だが、それぞれ垂直に並んでいた。
「道、変だよ?しかも横じゃなくて縦だし…」
「お前は知らないかもしれないが、
ファルラーズみたいに、お前も地面だけじゃなくて壁や天井を走れるんだ
このステージでは壁と天井を走る練習をする」
ラゼルはそう聞くと、早速全身をバイクへ変形させ、道に乗ると走り出した。
「ん?何が壁で天井なのかよくわからん」
そう言いながらラゼルは平然と壁や天井を走行している。
「なんだ、普通に走れてるじゃないか
違和感はないのか?」
「ん〜…、あぁ、言われてみたら確かに多少の重力の違和感はあるかも
でも別に平気かな?」
「特に問題なさそうだな
障害物追加するぞ」
総長はそう言って操作すると、トラック上にモーニングスターのようなトゲが生えた大きな玉が現れた。
「うわ!!!!」
ラゼルは目の前に突然現れた其れを視認すると慌てて避けた。
が、スピードをかなり出して走っていたので避けれたのは最初の一つだけ。
避けた直後にまたも現れたトゲ玉は避けきれず、思いっきり正面からぶつかり、大爆発が起きた。
トラックにはパリンと大きな亀裂が入って割れ、
下半身のみになったラゼルの車体が断面から炎と煙を上げ、火花を散らしながら宙を舞った。
その下半身が地面につく前にラゼルはポッドで復活した。
「…は………ぁ…ぁ……」
ラゼルはあまりにも突然に訪れた死に顔面青ざめ、震えながら突っ立っていた。
あの時とはまた違う”死”を経験した。
あの時は(もうじき死ぬんだな…)って思え、徐々に意識が遠のく中で”死”を覚悟していたので恐怖を感じなかったが、
今さっきのは、それを思う瞬間が微塵もないまま意識が突然途切れたのだ。
もし自分が不老不死じゃなくて此処が仮想空間じゃなければ人生が終わっていた。
仮想空間だから自分に限らず誰でも復活できるが、
恐らく、自分じゃない他の誰かでも一度、”終わりの瞬間”を経験すれば恐怖は感じるだろう。
アンドロイドの体だと傷ついても再生できないから、
アルティやいつもの時より”傷ついてはいけない”と、緊張感がある。
その場に突っ立ったまま青ざめ震えているラゼルを見て、総長は女の子から聞いた過去の話を思い出した。
自分は何をどうしようと”死”というものは経験出来ず共感することは出来ないが、其れがあらゆる生き物が恐れるものなのはわかる。
「お前は私と同じ不老不死なんだろ?
体は失っても、意識までは失わないはずだ」
ラゼルは首を傾げる。
上半身を失ったあの時の自分の意識は、一体何処へ…?
不老不死になっても、体が大きく傷つき、意識が消えるあの瞬間は怖い。
やっぱり総長にはこの気持ち、わからないんだ。
でも、こんな中途半端な所で終わるわけにはいかない。
ラゼルはポッドから出て、再度バイクに変形すると、速度の出し過ぎに気をつけながらトゲ玉を避けるトレーニングを始めた。
道が狭く、トゲ玉の配置されている間隔が短いので、速度を出すとどうしても避けきれない。
でも、今のこのような事がレツェノイルでも起こるかもしれない。
なら、こんなにボコボコ当たるとプライドが台無しだ。
体が前後に長く、人型の時と違って機敏な動きができない。
しかも、重い。
「ねえ、このバイクの体ってどのくらいの重さなの?」
「1000tの半ばくらいはある
開発初期は2000tを超えてたんだ。
これでも結構軽くした方なんだぞ?」
このバイクの体の重さは知れてよかったが、
さっきからゼージスの助言が助言じゃない。
サポートしてほしい自分の気持ちに水を差してくる。
自分一人で黙々とトレーニングに集中していた方が良い。
「…あとは一人でトレーニングするからいいよ」
ラゼルはトラックを走り、トゲ玉を避けながら言った。
「いいのか?私が見てなくても」
「うん」
ラゼルは即答した。
「じゃあ、ヘクスの奴に監視をしといてもらうように言っておくからな」
そう言って、総長はこの場を後にした。
総長がこの場を去った後、ラゼルはトレーニングに集中した。
何度かトゲ玉にぶつかるうちに、高速で走っていても避けるコツを掴んできた。
ラゼルは人型の姿に戻り、ポッドに入ってパネルからLevelを3に変更した。
扉が開くと、ピンク色だった世界が今度は赤色に変化した。
道がさっきよりも複雑になり、彼方此方にグネグネと曲がっている。
わかりやすく言えば、ある程度使い古したヘアゴムのような感じ。
髪からほどいても癖が取れず、ゴムがクネクネしたままになるアレだ。
ラゼルはまたバイクに変形すると道を走り出した。
最初は少し戸惑ったが、実際に走ってみたらそうでもなかった。
急なカーブや上下左右に複雑に曲がりくねる道も難なく走行できるので、
ラゼルは障害物を追加しようと人型に戻りパネルの前へ。
設定を見ていると、ある項目が目に入った。
「『敵の数』、『敵の強さ』…?
障害物以外もあるじゃん!」
ラゼルは早速、UT2体、HP1体の合計3体の敵を追加した。
すると、3台のバイクがトラックを各々走り出した。
まだ自分には敵対していないようだ。
…まてよ、バイク形態に”武器”ってあるのか?
ラゼルはポッドから数歩歩いてバイクに変形すると、武器の確認をする。
(ん〜?…無い…無いな!?
無いなら、格闘オンリーって事か?
でも、格闘って言っても、蹴りくらいしか出せないな…
なんとかすれば倒せるか、よし)
ラゼルは少し進んでトラックに入る。
するとラゼルがトラックに入った途端、3台のバイクが敵対し高速で此方に向かってくるではないか!
ラゼルは一番接近してきた1台の体当たりを避け、直ぐ様その場で高速でターンすると2番目に来た敵バイクに蹴りをかまし、2台目の敵バイクをトラックから蹴り飛ばした。
その場から離れると、残った2台は後を追う。
2台がラゼルを挟むように真横まで迫ると、ラゼルはそれぞれの体当たりを華麗に避け、その隙に2台同時に蹴り飛ばし、トラックからはたき落とした。
(ふぅ、バトルはその場でなんとかなりそうかな。)
ラゼルは3台の敵のバイクを倒し、無事にサイクルフォームのトレーニングを終えた。
第3章 天を駆ける漆黒
サイクルフォームのトレーニングを終えた数日後。
ラゼルはまたいつもの様にトレーニングをしようとポッドがある部屋に向かっていた最中、総長から通信が入った。
「実は、バイクの他にも変形できるものがある
パネルに項目が増えている筈だから確認してみてくれ」
総長からの通信を聞いたラゼルは興味が湧き、早足でポッドへ向かった。
ポッドに入りパネルを確認すると、総長が言っていた通り項目が増えていた。
(『ジェットモード』ってなんだ?)
新たに増えた項目を確認するも、パッと見は何用のモードなのかわからなかった。
とりあえずLevel1のステージにしてトレーニングを開始してみる。
扉が開く。
空のような空間しか見えない。
よく見ると空中に輪っかが浮いている。
ポッドを出て右を見ると、まっすぐ伸びた道路のような道がある。
このステージ、航空機専用か!?
地面がある場所のギリギリまで立ち、下を見てみる。
デバイスのスキャン範囲をどんなに広げても空しか見えない。
目の前に浮いている輪っかはトレーニング用なんだろう。
バイクだけじゃなくて、航空機にも変形できるってことだよね?
ラゼルはポッドの右側にある道の真ん中に立ち、意識を集中させる。
すると体は航空機のような形へ変形した。
どんな見た目なんだ?鏡があったら見てみたい〜!
そういえば、自分の形態の情報って見れたりしないのかな?
ラゼルは目の前にディスプレイを出す。
現れたディスプレイには既に現在なっている形態についての説明が書かれていた。
解説の横に、その形態の見た目の3Dモデルのようなものが表示されていた。
(これが今の自分!?戦闘機だ!)
形は真上から見たら三角形のようで、体の左右には機銃のようなものが付いている。
実は航空機は、ラゼルの姿で変形するよりも前に変身したことがあり、経験済みである。
だが自分のこれは足(?)が無く、ホバーで浮くタイプだ。
ラゼルはそのまま垂直で浮遊し、ビューンと前方に飛行してみせた。
乗り物の状態のホバーでの移動はバイク形態で経験済みなので、戦闘機に変形するのは初めてだがすんなり飛行することができた。
念の為、空中に浮いている輪っかを何度かくぐる。
飛行は前から慣れていたので、平気そうだ。
ラゼルは地面がある場所に戻って人型の形態になると、ポッドの外側にあるパネルで敵を追加した。
追加したのはバイクの時と同じ3体。
後ろを振り返ると、敵の戦闘機が空中を飛行している。
自分はまだ人型形態のままなので敵対はしてこない。
ラゼルはポッドから少し離れて再度戦闘機に変形し、陸地から離れる。
すると、3機の戦闘機が敵対し此方に向かって襲いかかってきた。
ある敵は機銃で射撃し、ある敵は此方に向かって突っ込んでくる。
ラゼルはそれらの攻撃を全て避け、突っ込んできた1機の背後に素早く回ると、機銃から超魔導弾を放ち敵を撃墜した。
機銃は2つ付いてはいるが、一度に狙えるのは1体だけ。
とりあえず1機ずつ始末していくことに。
どう倒すか考えていると、1機が背後に回って来た。
ラゼルは宙返りして敵の背後を取り、超魔導弾で撃墜する。
残った1機とギリギリですれ違い、ラゼルは直ぐ様方向を変え、敵の方を向く。
敵も此方側に向こうとターンしている。
敵が此方に向ききる前にラゼルは超魔導弾を放ち、敵は背中から食らい撃墜した。
無事に3体全員を倒すと、ラゼルは陸地に着陸し、人型に戻るとポッドから基地へ帰還しトレーニングを終えた。
第4章 敢闘
ジェットフォームの初日のトレーニングを終えた数日後のある日、エリツァイ・ヴァフェティクズからヘクスレブラに通信が入った。
レツェノイルで殺人を行なっている集団が乗り物に乗って暴走しているとのこと。
司令官はラゼルとその他4人の戦士を呼び、レツェノイルへ向かうよう伝えた。
ラゼルは過去にアウレイス団長にヘクス・ツァータ団の格納庫へ案内された事があり、
その4人とは其処で出会った。
格納庫の中には車やバイクや航空機や戦車、船なんかが入っていて、普通にペラペラと人語を喋る。
当時はなかなか衝撃的だった。
でも、今は自分もそれに仲間入りしたようなものだ。
バイクに変形できる4人の戦士達をジェットフォームになった自分に乗せると、急いでレツェノイルへ向かった。
ラゼルは司令官から伝えられた座標へ4人を乗せて飛ぶと、殺人集団らしき者達がバイクや車に乗って暴れている。
ラゼルは高度を下げて4人を降ろすと、4人はバイクに変形し集団を追う。
ドドドドドド!!!
暴れる者達の正面でズドンズドンと超魔導弾が着弾し爆発を起こす。
そのうちの数弾が奴らに直撃し、数台が吹っ飛んだ。
突然背後から来る攻撃に驚き、後ろへ振り向く。
そこには、4台のバイクとそのすぐ上に黒い戦闘機が飛行して追ってきていた。
「ヤベッ!!」
暴れる者達は逃れようと速度を上げて逃走を図る。
4人の戦士達は後を追い、ラゼルはサイクルフォームへ変形し着陸すると集団のうちの1人を追いかける。
バイクに跨り、後ろに乗っているもう一人が銃で狙い、ラゼルを攻撃してくる。
だがラゼルは全ての弾を避け、速度を上げて追いつくと、後輪で薙ぎ払い2人が乗るバイクを吹っ飛ばした。
ラゼルは間髪入れず2人を魔法で拘束しロンボジオンへ転送すると、残る集団の追跡を始めた。
集団を追っていると、屋根の上から一人が飛び降り、ラゼルのハンドルにしがみついてきた。
「ッ!?」
「クソ、言う事聞けよ!!」
飛び乗ってきた者はラゼルを乗っ取り運転しようとするが、無駄だった。
マップや速度メーターは表示されず、ハンドルを切る事ができなければペダルを踏むこともできない。
一方ラゼルは、経験したことのない不快感に襲われていた。
突然、名前も顔も知らぬ者が背中に飛び乗ってきたのだ。
自分の体の一部を掴み、叩いたり蹴ったりしてくる。
ラゼルは思いきりグンと速度を上げ道を突っ走る。
「おい!!大人しくしろ!!俺に大人しく運転されてろ!!!」
乗ってきた者は離されまいと全力でしがみつく。
レツェノイルに住む生体アンドロイドは宇宙戦士のなり損ないだと聞くが、
500km以上出していてもしがみつく怪力もいるもんなんだな…
でも、自分を奴隷のように扱う態度と触られる感覚が不快極まりなく、そろそろ限界だ。
ラゼルはグンと更に速度を出し、ギリギリ地面と擦れないくらいの角度で体を思い切り傾け、建物の角に超高速で接近する。
「うわああああああああああ!!!!!!」
上に乗っていた者が ドカン と、とてつもない速度で建物の角に衝突し、ラゼルはその場から颯爽と走り去った。
背後で、血と肉片の花火が上がった。
「リーダー、あと1人です!囲って拘束してます!」
ラゼルへ4人のうちの1人から通信が入った。
上に乗っかってきた者と葛藤していたらいつの間にかあと1人になっていた。
ラゼルは4人の元へ高速で向かう。
公園の中心で、バイクの4人が1人を四方から囲っているのが見えた。
ラゼルは、囲まれている1人の背後からそのままの速度で接近し、真後ろまで来ると思い切り後輪で遠くに薙ぎ飛ばし、魔法で拘束しロンボジオンへ転送した。
ラゼルはエリツァイ・ヴァフェティクズへ通信を入れる。
「ありがとう、助かったよ!」
ハキハキとした女性の声で通信が帰って来た。
ラゼルはジェットフォームに変形すると4人を乗せてグリューンへ戻るのだった。
仕事を終えてグリューンに帰還した翌日。
今日は月に一度の”ノマーシー・ウォー・デイ”だ。
早朝、グリューンの戦士達は屋外で整列し待機している。
ラゼルは今日が大事な日だという事を忘れて総長のベッドで爆睡している。
時間が4時になると同時に、外から刃物が交わる音や銃声が聞こえてきた。
それを聞いて夢から覚めたラゼルはのっそりと起き上がり数秒寝ぼけると、ハッと思い出した。
(ヤベッ!すんげえ忘れてた!!!)
ラゼルは大急ぎで支度を済ませると勢いよく屋外へ出た。
両腕をブレイドに変形させると、ペンテリゴノの戦士達に向かってブレイドを振り回す。
胴体を斬り刻み、超魔導刃を交えて ガンッ と音が鳴る。
いつもの様に戦闘していたラゼルだが、自分に新たな形態が増えたことを思い出した。
(そうだ!いいこと考えた!)
ペンテリゴノの戦士達が来ない間に、ラゼルはジェットフォームへ全身を変形させ、上空で飛び回るペンテの戦闘機を撃墜していく。
ペンテの戦闘機をあらかた始末すると、次の標的は地上の戦士達へ。
ラゼルは地上にいるペンテの戦士達に向かって超魔導弾を発射する。
ラゼルの赤く輝く超魔導弾が流星の如く地上へ降りかかり、大爆発を起こす。
その様子を見たペンテのある戦士が違和感を覚え、上空に目をやる。
「な、なんだアイツ!?」
「ヘクスの新しい戦闘機だ!」
「『ラゼル』だ!!」
ある戦士がデバイスで何者なのか確認をすると、ヘクスレブラの幹部であるラゼルだった。
いつもボコボコにしてくる奴が、今月から新しいのを覚えて来やがった!
上空を飛び回るラゼルに夢中になっていると横から超魔導刃が襲いかかった。
「ほら君達、何やってるの?仕事中でしょ〜」
シルバー・ネオ団団長のワイクリだ。
「上からもやってもらってすまないね」
ワイクリはラゼルに向かって手を振りながら言った。
先ほどペンテの戦闘機を片付けたはずが、気がつけばまた空を飛んでいる。
全ての戦闘機はある方向から飛んできているようだった。
ラゼルはペンテの戦闘機を撃墜しながらその方向へ向かう。
少し飛ぶと、奥の方で大きな何かが鎮座していた。
アヴァンジャス・ガシオン団団長の『アーディ』だ。
大きなガレオン船に変形したアーディの船内でまだ戦士達が待機していた。
これはいけない!湧いてくるゴキブリ達を始末してやらねば!
ラゼルは人型に変形して戻り両腕をブレイドにすると、勢いよくガレオン船に斬り掛かった。
中にいる戦士達を船ごと2つに斬り裂いた。
「アーディがやられたよ!」
参加せずロートッサで待機しているペンテ・ツァータ団団長のラハトはペンテの団長らに通信を入れた。
「ちっ、アイツまたかよ!」
「デカいから恰好の的だよねぇ〜どんま〜い」
ペンテの団長らはいつもの様な反応をした。
ラゼルはアーディと複数の戦士達を始末すると、また地上でペンテの戦士達をボコボコにした。
以前は普通に腕の武器で無双していたが、今回は思いつきで戦闘機の姿で無双してやり、地上でちょっとした騒ぎになってラゼルは思わず笑みがこぼれた。
第5章 再開と特別な証
ノマーシー・ウォー・デイの翌日、ラゼルはリフレッシュの為レツェノイルに外出していた。
ジュースを片手にイレクトロシティをぶらぶらしている時、狭い路地に何気なく視線をやる。
その薄暗い所にあるベンチに、見覚えがある奴が座っていた。
(!?)
ラゼルはそっと様子を伺う。
“グレイド”だ。
でも服装はあの時と違く、金品がジャラジャラと輝いていたジャケットではなく、少し緩めのジャージを着ていた。
ラゼルは顔を顰めてグレイドに近寄る。
「…そんな所で何してんの?」
「あ、あの時のソルダーさん…どうも」
グレイドはラゼルの顔を一瞥するとすぐに俯いた。
ラゼルが近寄るとグレイドはまたラゼルの顔を見た。
「ああ、隣座る?どうぞ」
ラゼルはベンチの空けられたスペースに渋々座る。
「修理、してもらったんじゃないの?」
「うん、今はもう平気なんだ。
あの時、なんであんな事してたんだろうって、
自分でも分かんなくて…
人格もそうだし、急に別人に体を乗っ取られたような感じで、
今まで全く興味無かったものに異常なほど取り憑かれて…
あの時の僕、マジで頭どうかしてるよ…」
「記憶あるんだ…」
「うん、しっかり頭に染み付いてる。
全部覚えてる。
あの時、君にあんな失礼な態度とって、本当に申し訳ない。
君の活躍は聞いてるよ。
君って、ただのソルダーじゃないんだろ?
ヘクスレブラの幹部なんだって?」
「あー、まあねー」
ラゼルはそう言うと、ベストの内側から金のバッジを取り外してグレイドに見せた。
「おぉ、本当に幹部なんだ、しかも上級の!?
余計に申し訳なくなってきた…
あの時の自分が本当に嫌いだ…」
グレイドは片手で頭を抱えて俯いた。
憎たらしそうに歯を食いしばり、もう片方の手はギュッと握っている。
ラゼルはその様子のグレイドをじっと見つめていた。
「服って、いつもそんな感じなの?」
「ああ、今日はたまたまジャージ着てるけどね
前着てた服は…捨てた。
修理してもらった後、着てた服が家に置いてあったのを見て耐えられなくなった。
うざい、気色悪い、大嫌い…
僕の銃で一片も残さず消し飛ばしてやったよ。
他にも置いてあった…というか多分自分が置いたんだろうけど、
沢山の金とか宝石も全部、同じように消し去ってやった。」
「売らなかったんだ」
「金なんて、無くても過ごせるからね
あの事があったから尚更嫌いになったよ。
金(カネ)が嫌いだ。…暫く、見たくない。
あっても、リラックスする為にスイーツ買うくらいかな!」
グレイドは顔を上げて、ラゼルの方を見て笑みを浮かべた。
「へえ〜、この前コンビニで新作スイーツ出たよね?食べたりした?」
「食べたよ!外がパリパリで中はフワフワで、ベリーのジャムが入ってたよ
味は悪く無かったよ」
「えーいいな〜!今度食べてみよ!
あとさ、最近仕事はどう?」
「以前と変わらず、イカれた奴だけ潰してるよ。
最近は機械のアンドロイドの異常が少なくなった気がしない?
お陰で仕事も少し減ったよ。
まあ、良い事なんだけどさ」
「最近、生体の異常行動多くない?
この前のもそうだしさ、
生体って、どこがおかしくなるんだろうね」
「それな〜」
グレイドと久々に再開して、異常無く過ごしているようで安心し、
少し仲良くなれた気がしたラゼルだった。
(そういえば、なんでレツェノイル来たんだっけ…
あ、そうだ!!)
ラゼルは用事を思い出し、バッと立ち上がった。
「仕事?」
「ううん、用事思い出しただけ。
元気そうで良かったよ。じゃあね」
「いってらっしゃい」
ラゼルはジュースを飲み干すとゴミ箱に投げ入れ、グレイドに手を振りその場を去った。
今日はあの時のように、またエルンスから呼び出されていた。
ラゼルはロンボジオンに着くと、エレベーターから最上階へ向かった。
最上階に着きエレベーターの扉が開くと、エルンスが待っているのが見えた。
エルンスはラゼルに気がつくとエレベーターの前まで行きラゼルを呼んだ。
「まってたよ!ささ、こっちへどうぞ」
ラゼルを社長室の中まで連れてくると、エルンスはポケットから何かを取り出し、ラゼルに見せた。
「この前、渡し忘れてたんだ
はい、これ、どうぞ」
エルンスがそう言って手の平に乗せて見せたのは、ロンボジオンのプラチナのバッジだった。
金のバッジは一般のハキアマーダー人でも相当頑張って努力すれば得られるもの。
だがプラチナのバッジは、一般の民が後天的に得ることは不可能で、とっても貴重な特別なもの。
ハキアマーダーの神しか貰うことができないものだ。
ラゼルは、そのプラチナのバッジを受け取った。
「私やゼージスが付けているのは前から知っているのに、
君に渡すのがとても今更になってしまい申し訳無い」
ラゼルは暫くバッジを見つめた後、右手でバッジを握り、両手を高く上げて喜んだ。
「やったあああああああ!!!
ずっと欲しかったんだこれーー!!!」
「プラチナはこれで2個目だな♪」
「え?」
「ヘクスレブラのプラチナバッジも持っているんだろう?」
「いや、持ってないよ」
「おや?
ゼージスに連絡すればバッジをくれるはずだよ
聞いてごらん」
「うん、聞いてみる」
ラゼルは総長にデバイスから通信を送る。
「ねえ総長、総長ってプラチナのバッジ持ってるよね?それで…」
「ああ、そういえばそうだった、お前に渡すの忘れてたよ!
お前が帰ってきたら渡すよ
用意して待ってる」
「…やったああああ!!!」
ラゼルはまたしても笑顔で大喜び。
エルンスは表情で察した。
「よかったな!
プラチナバッジを複数所持するのはお前が初めてだ!」
両手を上げて大喜びするラゼルに、
エルンスは笑顔で拍手を送った。
第6章 初めての競争
2日後、ラゼルは朝食を食べ、いつもの様にトレーニングしに部屋を出ようとした。
「なあ、レースに参加しないか?
3日後にイレクトロシティでバイク形態限定のレースが開催されるんだ」
「レース…?」
「ルールは、普段の仕事中のように大きくジャンプして建物の屋根とかに乗ったり、蹴ったりして転倒させるのは無し、
倒れない程度の体当たりはOK、
ショートカットもせず極力道を走るんだ
一番早く10周した奴が優勝だ」
最初は戸惑った。
でも、良い経験になりそうだと思い、ラゼルは頷いた。
「うん、参加してみる」
「いつものパネルから会場で走るトラックを設定すれば走れるから、練習してみてくれ」
「じゃあ早速行ってくるよ」
ラゼルはいつものポッドのパネルで会場のトラックをステージに設定し、仮想空間に行く。
トラックは基本的には水平だが、
ジェットコースターのような大きな縦のループや、上下する山や谷のような部分がある、かなり巨大なステージだった。
ラゼルはとりあえずサイクルフォームに変形し、トラックを走ってみる。
特に目立った難所は無さそうだ。
1周した後人型に戻ると、パネルから敵の設定をしてみる。
パネルを見てみると戦うだけではなく、
タイムアタックなどで速さを競い合うモードが存在した。
敵の手強さを設定してみようとする。
だが、レースに関しては知識が無く、どうすればいいのかわからない。
デバイスに解析してもらう。
解析された情報を見てみると、どうやら『普通』が実際のレースに出場するレーサーの難易度だそうだ。
過去10年分のレースの情報を解析した結果で、近年は速いレーサーが多く、難易度が上昇の傾向にあるらしい。
(レースか…
戦う事ならあるけど速さを競う場合はどうなんだろう…)
とりあえず『普通』の難易度で競い合うバイク達を呼び出し、サイクルフォームに変形するとグリッドにつく。
シグナルが消えると一斉に速度を上げて走り出す。
なんとかして追い抜こうとするが、なかなか隙が無く、ずっと真ん中あたりのまま。
(どうやって抜くんだ!?)
抜き方がわからず、そのまま10周を終え、少し抜かれて下位でゴールした。
(こんなんじゃ幹部の恥だ…)
ラゼルは当日まで頑張ってトレーニングした。
レース当日。
ラゼルは総長と2人で会場にやってきた。
会場にはとても沢山の客が集まっており、屋台のようなものも出ていた。
客で賑わう表の入り口ではなく、人が少ない裏口から会場の中へ入る。
奥へ進むと受付のような所があった。
総長はそこの人と何かを話すと、「参加してくださるローゼンさんですね!」とラゼルに笑顔を向けた。
総長とラゼルは更に奥へと案内された。
総長は其処でラゼルと別れた。
「頑張れよ」
ラゼルだけ奥へ案内される。
奥の方へ案内されスタッフが扉を開けると、中には大きな部屋があり、39人のアンドロイド達が居た。
準備体操をしたり、ジュースを飲んだり、様々なことをして過ごしている。
「ねえ見て見て!あの子、噂の幹部さんじゃない?」
「え、本人!?マジで!?」
やっぱり、レツェノイルで派手な仕事をしているからか、知られているのだろうか。
アンドロイド達は驚いたり喜んだり、いろんな反応をする。
ラゼルはスタッフに連れられ、その中の今回競い合う7人に会いに行く。
スタッフが7人に説明をすると、7人はラゼルに挨拶をしてきた。
「貴方が共に走ってくれるローゼンさんね!よろしくね!」
「ローゼンさん!サインください!」
またしても様々な反応をされるラゼル。
1人だけ違うみたいだが。
「ローゼンさんって、そもそも変形できるのかな?」
「そういえば、いつも人型しか見たことない…」
何人かは心配をした。
ラゼルは何も言わなかった。
今言わずとも、この後わかることだから。
そうこうしていると、ラゼルを含めた40人の内の8人が控室から出ていく。
その数十秒後、外から歓声が聞こえてきた。
ラゼルは、一応トレーニングはしたものの、不安で一杯だった。
本番に弱いタイプだから尚更緊張する。
ラゼルは黙って、少し下を向いて俯いている。
その様子を見た何人かのアンドロイド達は心配するも、ラゼルは頑張って誤魔化した。
ふと、ラゼルは対戦する7人の様子を伺う。
人型形態だから、バイクに変形した時の想像がつかない。
どんな見た目をしてるんだろうと気になるラゼルだった。
考え事をしていると、出ていった8人が帰ってきて、また別の8人が外に出ていく。
帰ってきた8人の気配を感じると、ラゼルは咄嗟に視界から外した。
トロフィーかな?メダルかな?それとも紙の賞状みたいなやつかな?
実際に自分で手に入れて確認してみたい!
時間が経つにつれ、賑やかだった控室が自分達の8人だけになった。
スタッフに呼ばれ、ラゼルと7人は入り口の手前でスタンバイする。
レースが終わり、帰ってきた8人とすれ違う。
ラゼルは目を瞑ってネタバレを回避する。
嬉しそうな声や辛そうな声が後ろから聞こえる。
司会者が次の8人を呼ぶと、一番前に続き、会場へ出る。
8人が会場に出ると、物凄い歓声が会場中から上がった。
普段仕事で街中を駆け回っている黒髪の女の子『ラゼル』がいるからだ。
ラゼル達は会場の真ん中あたりに着くと、司会者からルールを聞かされる。
蹴ったり吹っ飛ばしたりの妨害行為や
武器を使い アンドロイドが怪我を負うような危険な行為は禁止で、
レースは仮想空間上で行う とのこと。
会場の真ん中に、仮想空間に存在するトラックが立体で浮かび上がり、
その上には巨大なディスプレイが浮かび、仮想空間内を映している。
勇気で溢れ、観客に笑顔で手を振る7人。
その内の1人は憎たらしそうにラゼルを睨んでいた。
8人は並べられたポッドにそれぞれ入り、仮想空間へ行く。
8人は仮想空間に着くとバイク形態に変形し、トラックをゆっくり走り始めた。
緊張したり、楽しみにしてたり、様々な心情を話し合うバイク達。
ある1台のバイクが優しそうな声でラゼルに話しかけた。
「大丈夫?走れそう?」
ラゼルはどもりながらも返事をした。
「う、うん、変なことしないようにできるだけ頑張る」
ラゼルが返事をすると、優しそうな声のバイクは ふふっと笑った。
「いつも街と私たち民を守ってくれてありがとうね
貴方がサイクルフォームに変形してる姿、初めて見たわ♪」
1周が終わり、各々がグリッドに着く。
仮想空間を静寂が包み込む。
(やばい、き、緊張するっ…
そ、そうだ…これは…仕事だ!
仕事なんだ!)
ラゼルはオフモードから仕事モードに心をなんとか切り替える。
赤いシグナルが順番に消え、全てが消灯する。
シグナルが消えた瞬間、全員がアクセルを全開にし、トラックを走り出した。
ラゼルは最初のトレーニングの時と同じく真ん中あたりにいた。
背後から邪悪な気配を感じる。
たまに睨みつけてきていた奴だろう。
(アイツには絶対負けたくない!
10周するまでにできるだけ前に出ないと!!)
カーブを曲がり、山を登り、谷を下り、ループを通る。
ラゼルは1台、また1台と追い抜く。
2周した後、あの睨みつけてきていた奴がすぐ真横まで迫っていた。
そいつはラゼルを下位に突き落とそうと、何度か体当たりを仕掛ける。
ラゼルは全ての体当たりを避け、そいつより少し前に出る。
するとそいつは、少し距離を取ったかと思えば、
思いっきりタックルを仕掛けてきた。
もちろん、ラゼルはそれを避けた。
そいつは自身の勢いに勝てず、そのままトラックから落下。
勢いよくしていた体当たりが違反行為となり、そいは失格になった。
ポッドから復活したそいつは腕を組むと、トラックを走るラゼルをさっきよりも憎たらしそうに睨みつけていた。
ラゼルはその間も、追い抜かれては追い抜きを繰り返した。
ちょくちょく仕掛けられるタックルを避け、上位に躍り出る。
自分の前を、さっきの優しそうな声のバイクが独走していた。
(あの人速!?)
10周のラストに差し掛かった時、ラゼルは1位のバイクを見て、思いっきり加速しトップに接近する。
惜しくも、1位にはなれなかった。
会場では物凄く熱い歓声が響き渡っていた。
トラックから外れ、人型へ変形しポッドに戻ろうとすると、驚きの光景を目の当たりにした。
全てのポッドが破壊されていたのだ。
7人は仮想空間に閉じ込められ、激しく動揺した。
(此方でなんとかするのでそのままお待ちください!)
困惑していると司会者のデバイスから8人に通信が入った。
ある1人を除き、仮想空間にいる7人がどうにかしようと、デバイスを駆使して原因を探ろうとした、その時だった。
違反行為をして失格になった奴が、ラゼル目がけて鎖を放った。
魔導エネルギーでできた鎖は斬ることができない為、ラゼルは変形せず全て避け、
そのままそいつを魔法で拘束し、仰向けに倒した。
「お前が俺を突き落とすからこうなるんだよ!!!」
そいつは意味不明なことを憤怒の表情で此方を睨みつけ言い放った。
本当ならそのままこいつの首を斬り裂いて切断してやりたい。
でも、大勢の観客が見ている此処ではできない。
ラゼルはそいつを思い切り鋭い目つきで睨みつける。
拘束されたそいつは構わず怒号を飛ばしている。
6人の内の数人はこいつが何故こんな事をするのか察した。
こいつも、ポッドを破壊したグループのメンバーの1人で、ラゼルを自身ごと仮想空間に閉じ込める為にわざとレースに参加した奴だった。
犯罪を行い、平和を乱す者にとって、ラゼルは脅威であり強敵であった。
ラゼルがいなくなった表の世界には脅威が存在しないも同然だった。
「ぶははははは!!!
拘束しても遅えよ!!!
今頃ヘクスとロンボは俺等の手の中だ!!!」
また意味のわからないことを言い放っている。
まさかこんな祭りの会場でもAO発生した者が居るとは…
そうこうしていると、破壊されていたポッドが新品に置き換わった。
ラゼルのデバイスにヘクスレブラから通信が入った。
(原因のグループは此方で始末した)
6人はポッドに入り、ラゼルは拘束した奴を空いたポッドに放り込む。
自身もポッドに入り、会場へ帰還した。
会場へ帰還するとラゼルは拘束した奴をロンボジオンへ転送した。
メンバーが1人足りないと、会場が騒がしくなる。
司会者が、違反行為をしていたバイクがAOの疑いがあるアンドロイドだと伝えると、観客は驚いた。
ラゼルと1位、3位のアンドロイドが表彰台に上がると、スタッフが何やら大きな輝くものを持って此方にやってきた。
“トロフィー”だ!
1位は、優しそうな声をしていたバイクのお姉さんだった。
3人はそれぞれトロフィーを貰う。
ラゼルと1位のお姉さんは目を合わせると、お姉さんは微笑み、ラゼルは頬を赤く染めた。
ラゼルはふと、デバイスでお姉さんのプロフィールを見てみる。
(え!?)
お姉さんは、数年前からレースの大会で優勝しかしていない、
謂わば、”チャンピオン”であった。
バイクレースの2日後。
トレーニングが終わり、イレクトロシティでぶらぶらしていると、1人のファルラーズの者と会った。
「お、ラゼルじゃん!
この前のレース、最高だったよ!」
笑顔で手を振り歩み寄ると、ラゼルが1枚の紙のようなものを持っている。
「それ何?」
「この前ね、バイクオタクみたいな人に写真撮ってもらっちゃったんだよね」
そう言って、ラゼルはファルラーズの者に写真を見せる。
「「ロンボジオンバックでお願い!」って言われて、勢いも凄かったからつい…!」
「あー!
私も多分、同じ人に撮ってもらったことあるよ!
私も写真アナログで貰った!
え、てか何それ!?いいな〜!!
どうやってんの!?」
背後にはイレクトロシティの象徴でもあるロンボジオン本社が聳え立っている。
サイクルフォームのラゼルが手前に見えるが、
サイクルフォームのラゼルに少し寄りかかるように人型形態のラゼルが写っていた。
「これね、バイクじゃない方は後で別で撮って、
うまーく加工してもらったんだよ」
「へぇ〜凄!
反射めっちゃリアルじゃん!いいな〜」
バイクオタクに撮ってもらった写真の話で盛り上がる2人。
ファルラーズの子の視線がふと、建物の壁に貼り付けられたポスターに行く。
「そういえばさ、この前にあのポスター街中に貼らされたんだよね〜」
「あー、復活の前兆が確認されたから注意しろってやつ?
なんか胸騒ぎはしてるんだよね…」
第7章 空即是色
レツェノイルのとある森の中。
ある男性が、車に荷物を沢山載せて帰省していた。
森を出ると草原の大地が広がり、一件の建物が見えてくる。
男性の実家だ。
実家の前の道路に車を停めると、玄関の前へ。
インターホンを押した後、すぐに家族が笑顔で出迎えてくれた。
車に載せた荷物を下ろし、玄関から家の中に運んだ。
リビングに荷物を置き、まだ乗っている荷物を取りに車へ戻ろうとすると、玄関から巨大な熊のような生き物が牙を剥き出し、
無理やり体をねじ込んで家内に入ってきたのだ。
悲鳴が辺りに響き渡る。
大きく鋭い爪で、壁や床、テーブルを引き裂き、爪痕が残る。
用意されていた飲み物が入ったグラスや、食べ物が乗ったお皿などが床に散らばり、パリンと粉々に割れ、破片と食べ物と飲み物が床に散乱した。
追ってくる熊のような生き物から急いで逃げ、ベランダに行こうとする。
其処で男性の祖母と母が襲われ、血を流し気絶してしまった。
男性はなんとか逃れようと、熊のような生き物の顔面目掛け、魔法で火球を放った。
顔面に火球がドガンと当たり爆発し、熊のような生き物は目を瞑り顔を左右にブンブン振る。
男性はその隙に祖母と母を車の後部座席に乗せ、急いで扉を閉めてエンジンをかける。
すると、熊のような生き物は再び牙を剥き襲いかかってきた。
男性はアクセルをグッと踏み込み、車を加速させその場から逃げる。
熊のような生き物が怒りの形相で走って追いかけてきたが、流石に車の全力の速度には勝てないのか、少しずつ引き離した。
男性は熊のような生き物からある程度離れたのを確認すると急いで携帯電話を取り出し、とある番号にかけた。
「巨大な獣に襲われた!!!」
ラゼルはこの日もトレーニングを終わらせて屋外を走っていると、司令官から通信が入った。
レツェノイルの民が獣に襲われているとのことだった。
それを聞いたラゼルは驚愕した。
(は!?なんで!?)
戦士を4人連れて、送った座標に至急向かうようにと伝えられた。
ラゼルはジェットフォームに変形すると やってきた4人を乗せ、大急ぎで現場へ向かった。
送られてきた座標に行くと、一件の建物が見えてきた。
高度を下げて道路の所で4人の戦士を降ろすと、倒れていた生体アンドロイド達をロンボジオンへ転送するように指示をした。
ラゼルは4人を降ろすと、ジェットフォームのまま、通報した者を超高速で追いかける。
追いかけると、1台の車が見えてきた。
ラゼルが車に停まるよう指示をすると男性は車を停めた。
ラゼルは車の横に降りて人型形態になると、男性に 車ごとロンボジオンへ転送するから、後は指示に従うよう伝えた。
男性は頷き、ラゼルはロンボジオンへ転送した。
ラゼルは振り返り、右腕をブレイドに変形させると、建物がある方向へ道路を辿りながら走る。
すると、道路の真ん中で巨大な熊のような生き物が立ち止まり、周辺の匂いを嗅いでいた。
(コイツか!)
熊のような生き物は視界にラゼルの姿を捉えると、怒りの形相で牙を剥き襲いかかってきた。
ラゼルは一切動揺することなく真正面から立ち向かうと、熊のような生き物を思い切り両断した。
熊のような生き物は、鼻の先からお尻までを一直線に切断されて内臓が剥き出しになり、死ぬと同時にその場にパックリと倒れた。
(なんで熊が…?居ない筈じゃ…)
レツェノイルにはアンドロイドしか住んでいない。
レツェノイルの街などにあるスーパー、コンビニ、レストランなどで出回る有機物の食料品は全て、アウスルングから輸入したもの。
また、それらをレツェノイルに運んでいるのはアラリスとラハトで、生きた動物は一匹たりとも運ばない。
(1頭いるなら、他にもいるんじゃ…!?)
ラゼルはデバイスの範囲を広げ、レツェノイル全体をスキャンする。
すると、広範囲に存在する森の中で十数頭が見つかり、そのうちの数頭は既に繁殖し始めていた。
スキャンした熊は全て、元々アウスルングに生息しているとても凶暴な種類の熊だった。
アウスルングでも同様の被害が後を絶たず、可能な者が熊の駆除を行なっている。
デバイスの解析によると、ある人物が意図的に悪意を持ち、ここに連れてきた とのこと。
ラゼルは急いでヘクスレブラに通信を入れる。
ヘクスレブラでは既に熊を連れてきた犯人の特定が終わっており、ラゼルに犯人がいる座標を送信した。
ラゼルはジェットフォームに変形すると、できるだけ音を出さずに犯人がいる座標へ赴く。
犯人がいる場所へ向かっている最中もスキャンを続けていたが、熊だけでなく様々な凶暴な動物が森を住処にしているのが見える。
これは…一刻も早くレツェノイルから退いてもらわないといけない。
今迄存在していなかったものが突然存在するようになると、どうなるだろうか…
元々、グリューンとロートッサの拡張だけでは手狭な為、広げる為に自分が創造した惑星だ。
其処に宇宙戦士になれなかった生体・機械のアンドロイド達が住むようになり今に至る。
先ほども述べたが、この惑星にはアンドロイドしか住んでいない。
アンドロイドには無害でも、その他の生物には有害なものが沢山存在する。
特に、”魔導(まどう)エネルギー”だ。
高圧力の魔力をケラヴノスの雷の力と融合させたのが魔導エネルギーだ。
レツェノイルには、強大な魔導エネルギーを秘める『マジェス・ヴルケニア』という巨大な、機械でできた火山が存在する。
主に機械のアンドロイドの体内に存在する魔導エネルギーだが、
マジェス・ヴルケニアの魔導エネルギーは、機械のアンドロイドですら危険で有害となり、強大だ。
それをもし凶暴な動物が取り込んでしまったら…
大半の動物は呼吸困難と痙攣を起こし、数秒後には死亡する。
だがこれは生体・機械のアンドロイドも同じ、または、似たような状態を起こし故障してしまう。
マジェス・ヴルケニアの魔導エネルギーを取り込んでしまうと大半は死亡又は故障するが、
低確率で変異を起こし、更に凶暴になってしまう。
それは、影神の下位互換程強力だ。
しかも”其れ”がわらわらと無限に繁殖してしまう。
ラゼルは送信された座標に着くと、小さな木造の小屋が其処にあった。
犯人は中にいるようだ。
ラゼルは奴が連れてきた動物を一匹残らず魔法で拘束し、ロンボジオンへ転送した。
熊も、その他の動物も、全てだ。
残るは中にいる犯人のみ。
理由は…わざわざ問わずともわかる。
犯人は小屋の中でぐっすりと熟睡しているようだった。
ラゼルは犯人を魔法で拘束すると、動物達と同じくロンボジオンへ転送した。
転送後、念の為再度レツェノイル全体をスキャンする。
動物の姿は一匹も見つからない。
全て拘束し、転送できたようだ。
ラゼルはロンボジオンとヘクスレブラへ、全ての動物を拘束し転送したと通信を入れた。
ヘクスレブラからは了承の返答が帰ってきた。
ロンボジオンからは、被害を受けた者全員の治療が終わり、一命を取り留めた との通信が帰ってきた。
ラゼルはほっと一安心すると、今回の報酬を受け取りにヘクスレブラへ行くのであった。
第8章 ”其れ”は直ぐに始まり、直ぐに終わる
動物が現れた事件から3日後。
ラゼルは総長にある質問をしていた。
「仲がいい友達を連れてお出かけしてきてもいいかな?」
総長は少し戸惑うが、まあ大丈夫だろうと許可をした。
ラゼルは仲がいいヘクス・ツァータの戦士3人とそこの団長であるアウレイスを連れ、
5人とも戦闘機の姿に変形し、宇宙へ飛び立った。
いろんな惑星を見て楽しみながら宇宙をお散歩していると、ラゼルはある惑星から違和感を覚えた。
妖精の声が聞こえるのだ。
でもその他の4人には聞こえていない様子だった。
ラゼルは隠さず、すぐにこの事を話した。
「…本当なんだな?」
アウレイスは最初は少し怪しんだ。
でも、ラゼルは真剣な表情をしている時に嘘はついたことがない。
アウレイスはラゼルの言うことを信じ、ラゼルは惑星の住人にバレないように自分と4人に隠形魔法を使い、その惑星へ入っていった。
その惑星の大気圏に入ってそのまま下降すると、できるだけわかりにくいように遥か上空から地上の様子を伺う。
人間のような生き物が住み、建物のようなものが大地に並んでいた。
だが、看板のようなものには見たことがない言語の文字が見える。
(この惑星のどの辺から聞こえるんだ?)
(わ、わかんない…存在は感じるの
ハキアマーダー人でもアンドロイドでもこの惑星の住人でもない、他の生き物の存在が…)
じゃあなんなんだ?
動物か?精霊か?それとも…神か?
アウレイスはラゼルに質問するが、パッとする回答はされなかった。
(ねえ、さっきから住人達が俺らのこと見てるよ…?)
((え?))
(見えるのか!?)
ある戦士の報告でラゼルとアウレイスはやっと気がついた。
地上をよく見てみると、この惑星の住人であろう者達がオアーエヴァンデバイスのような機械を頭部に身に着けている。
だが服装を見ると、文明はそれほど高くは無さそうだ。
指を此方に指したりして観察しているのが見えた。
(なんでこの惑星の住人がデバイスをつけてるんだ!?
しかも、視界に入るあらゆる住人、全員が…!!!)
条件を満たしていれば装着することは可能だが、
似たようなものを製造するのは、たとえ条件を満たしている金バッジの戦士でも許される行為ではない。
ラゼルでも、許可を得ない限りできない行為なのだ。
これは…思っていたより大事になりそうだ…
我らに明確な敵意を持っているのなら、レツェノイルに存在する最大の兵器を使わざるを得ないかもしれない…
ラゼルは心の中でそう思った。
「民は関係無い、無視しよう」
ラゼルは4人にそう言った。
この惑星に存在する筈なのに、デバイスのスキャンでは妖精らしき存在を確認できない。
高度な技術を持つ者…
であれば、寝返ったロンボジオンの元社員、とかだろうか…
レツェノイルでは過去に1件だけだが、似たような事件が起きたことはある。
スキャンで場所や人物をハイライトされるのを防ぐ為、デバイスの通信を遮断する事はある。
そのような技術を持つ者がこの惑星に降り、自身で開発した兵器を使い、惑星の民を洗脳し、レツェノイルとグリューン、ロートッサを滅ぼそうとしているのかもしれない…
そうか、直接見れないなら、魔力でならどうだ?
ラゼルは魔力を探すモードに切り替え、大地を見回す。
この惑星の民は魔力を持っていない。
魔法は使えないようだ。
探していると、ある方向から僅かではあるが、魔力を感知した。
ラゼルは魔力を感知した方向へ4人を引き連れ飛行する。
遥か上空から、地上の様子を伺う。
(やっぱ駄目だ…僕らの位置バレてるよ!)
オアーエヴァンデバイスを惑星の住人全員が装着しているとは思わなかった。
(ラゼル、後ろ!!)
アウレイスがラゼルに知らせる。
ラゼルは振り返る前に弾を避け、超魔導弾は彼方へ飛んでいった。
振り返ると、地上で大きな兵器を使い、自分達を撃ち落とそうとしていた。
今、確実に此方に向かって攻撃してきた。
攻撃してくるならば仕方が無い。
「破壊しろ!!」
ラゼルは4人に指示をした。
地上に設置されている大きな兵器に向かって、ラゼルと仲間の戦士達は超魔導弾を放つ。
弾は兵器に直撃し、各地で大爆発を起こして破片が舞い、散り散りになった。
バレているので隠形魔法を使っても無駄だ。
ラゼル達は隠形魔法を解除し、5人は姿を現す。
急いで魔力を感じる方向へ再び向かい始めた、僅か数十秒後だった。
突然背後から超魔導弾を発射する音が聞こえ、5人は慌てて弾を避ける。
惑星の住人が戦闘機に乗り、数機が此方に襲ってきていた。
「は!?」
「おい、ジェットに乗ってるぞ!?」
仲間の戦士達は襲ってきていた戦闘機を見た途端、驚いた。
「犯人に操られてるんだ!
仕方が無い、撃ち落とせ!!」
4人はラゼルの指示を聞いた直後、追ってきた戦闘機に向かって攻撃を始めた。
遥か上空で超魔導弾が飛び交う。
当たらなかった超魔導弾は山や海や建物に着弾し、大爆発を起こした。
この惑星の文明レベルで察するに、乗っている者の操縦技術はそこまで高くないようだ。
全機を撃ち落とすと、再び急いで魔力を感じる方向へ向かう。
飛んでいると、岩の断崖絶壁に大きな洞窟のような穴が見えてきた。
と同時に、ラゼルは別の景色を見た。
2頭身で、身長が60cmくらいしかなさそうな2匹の妖精だ。
毛皮がむけて剥げ、暫く何も食べれていないのか頬がこけていた。
「おなかすいた〜…」
と、食べ物を幾ら探しても見つからないのにそれでもウロウロと探していた。
すると突然、目の前に自分達と同じくらいの高さの大きなホイップクリームが現れた。
妖精達は瞳を輝かせてクリームに近づくと、指にクリームを取り、ペロっと一舐め。
「美味しい…」と、笑みを浮かべていた。
「先輩!早く行こうよ!」
「ラゼル!立ち止まってどうしたんだ!?」
3人とアウレイスがラゼルに呼びかける。
「あ、ああ、ごめんごめん!
飢えた妖精達が見えたんだよ!此処にいる!」
ラゼルは戸惑うことなく、自分が見た光景を説明した。
「本当なんだな!?追っ手が来ない内に早く行こう!」
5人は洞窟内に入るとジェットフォームから人型形態に戻り、奥へと進む。
奥に進むと、明らかに人工的な壁と扉のようなものが見えてきた。
アウレイスはドアノブを掴み開けようとするが、扉は開かない。
「頼む」
そう言われるとラゼルはドアの施錠に関する機械をハッキングして解錠した。
「サンキュー♪」
ドアを開けて奥に進むと、また扉のようなものが見える。
ドアノブの近くに10個のライトがあり、全てが赤く光っている。
「ラゼルさん、レイス団長、屋内ではスキャンできるみたいです!
首輪をつけた10体の魔物がいます」
「ほう、倒せってことか!」
アウレイスがそう言うと、5人は散り散りになり魔物を倒しに移動した。
「全ての魔物倒しました!」
5分も経たぬうちに戦士達から通信が入った。
「ドア前で集合だ!」
ラゼルは戦士達にそう通信を返し、ドア前で待機する。
「待たせたな」
ドアノブの近くの10個のライトが全て緑色になっていた。
ラゼルはドアノブを掴み、ドアを開いて戦士達も続いて中へ入る。
先に進むと1基のエレベーターがあった。
5人はエレベーターに乗ると、ある戦士が先輩達に質問をした。
「ところで、何階なのかわかってるんですか?」
「多分一番上だと思う
なんとなくだけど」
そう言ってラゼルは一番上の階のボタンを押した。
「はぁ、普通にお出かけしてただけなのに、こうなるなんて…」
ある戦士が溜息しながら話した。
そういえば、元々はそうだった。
ただの息抜きの為に宇宙をお散歩していただけだ。
ラゼルはその間に「うちらがいる星にデバイスの通信遮断技術を持つ奴がいる」と、ヘクスレブラに通信した。
するとヘクスレブラからこう通信が帰ってきた。
その星は調査が進んでいなかった、
その星の民も我々の存在を知らない筈だった
と。
ラゼル達5人の視界の映像を確認していた社員が異常を感じ、既に調査が進んでいた。
調査によると、この惑星の住人は元々は温和な性格であり、争い事はほぼ無い らしい。
木や石、鉄などを使った道具や服、建物はあるが、電子機器などは無く、簡単に言えば”中世”のような感じだった。
デバイスの通信を遮断する技術は、デバイスの仕組みをよく理解している者でないとできない技術だ。
現在所属している社員の中でヘクスレブラとペンテリゴノ、ロンボジオンの3社のどれにも、犯人に該当するような人物がおらず、
その他で通信遮断技術と隠形魔法を貫通してスキャンする技術を持つ者はいずれかに所属していた元社員で間違いない ということだった。
いつものように、最低でもコアは残して此方に転送するようにと頼まれた。
丁度通信が終わった時、エレベーターは最上階に着いた。
4人は降りるがラゼルは降りず、エレベーターの中で突っ立っていた。
「うちは犯人を始末してくる
先に妖精達をお願い」
ラゼルは4人にそう言うと、扉を閉めた。
扉が閉まり、1人だけになったエレベーター内。
ラゼルは違和感を感じていた。
先程外から見た断崖絶壁の大きさの感じだと、まだ上部まで続いている筈だ。
魔物の位置はハイライトできたが、肝心の犯人は魔力だろうが、非生体の自律型機械(アンドロイド含む)だろうが、足跡だろうが、どのモードでもスキャンでハイライトする事ができない。
“この姿”では限界があるのか…
ラゼルはその場にお尻をつけて胡座をかくと、
アルティへと姿を変えた。
そういえば、自分はハキアマーダー界に存在する全ての姿と形を持つものを司る存在だ。
デバイスでスキャンできなくても、姿形を持つものの位置の把握なんてなんのその!
アルティはすぐに犯人の居場所を特定した。
やっぱり、上の階だ!
アルティは両手のひらからアトゥランスを形成して柄を握ると、エレベーターの天井を四角形に斬り裂いてぶち抜くと、上の階へ向かった。
奥に進むとまた行く手を阻むなんらかの仕掛けがあった。
我がアトゥランスにかかればガミダハルコンなどただの紙も同然!
アルティは仕掛けを無視して壁を斬り裂き、ズガズガと奥へ進む。
1つの壁が全面ガラス張りになっていて、海を一望できる部屋の中心に、デスクと椅子が窓の方へ向いて並べられており、
椅子には足を組んで不快そうにしている1人の女がいた。
「なんかさっきから煩いなぁ!?」
そう言い放つと女はバッと立ち上がり、後ろを振り向く。
入り口の扉がある壁が四角形に切り抜かれていた。
だが、其処には何もいない。
「なんなんださっきから!!
って、なんで壁がこうなってるんだ…」
どうやら、その女はアルティの姿が見えていないようだった。
アルティは既に部屋の中に入っていて、デスクの横から女をじっと見ていた。
(あ〜そういえば、
“神”ってデバイスでスキャンできなければ肉眼でも見えないんだっけ?)
アンドロイドならアルティの呼吸音もこの距離なら聞こえる筈だが、ただただ切り抜かれた壁の心配をしていた。
(んー、まあいっか!ラッキー☆)
アルティは心の中でそう思うと、女を魔法で拘束し、間髪入れずにロンボジオンへ転送した。
普通に戦えばかなり手強そうだが、こういう手を使うのも有りだな…
アルティはラゼルへ姿を変え、4人に通信を入れた。
「了解!
こちらで妖精達を保護した」
ラゼルは急いで4人の元へ向かう。
下の階に降りて奥へ進むと、2匹の妖精と4人の戦士達がいた。
ある一匹の妖精は体が濃いピンク色で、羊のような耳が生えており、さくらんぼのような果実が引っ付いた白いホイップクリームのようなものを頭に乗せていた。
もう一匹は体が黄色く、狐のような耳が生えており、頭にチョコミントアイスのようなものを乗せている。
「こ、この人は…?」
「ああ、心配すんな!私達の仲間だ!」
怯えた妖精の背中をさすりながらアウレイスは言った。
「ラゼルさん、この妖精達は近くの別の惑星に住んでいる住人らしいです」
「だから、これからその惑星にこの子たちを返しに行きたいんだが、いいよな?コマンダー?」
ラゼルは笑顔で頷いた。
1人の戦士がラゼルのデバイスへ妖精達が住む惑星の座標を送った。
ラゼルがジェットフォームに変形すると、
ラゼルの中にアウレイスと3人の戦士が乗り、前の座席の2人のそれぞれの膝に2匹の妖精を乗せ、惑星に向かって飛び立った。
惑星に向かっている間に、アウレイスは妖精達に問うた。
「君達はなんでこの惑星に来たんだ?」
「よ、よくわからない…
怖い女の人に「仲間にしてやる」って言われて頭を鷲掴みにされたんだよ」
「その女の人に薬みたいなのを飲まされそうになったり、注射器で注射されそうになったんだ!」
「でも、魔法で薬とか注射器とかを吹っ飛ばしたら、今度は大きいメガネみたいなのをつけられそうになったよ…」
(大きいメガネ…ゴーグル型デバイスの事か)
(この妖精達とあの惑星の住人を仲間にして、”うちら”を潰そうとしてたんだよ!)
ラゼルはアウレイスに通信を通して話した。
その直後、ヘクスレブラから通信が来た。
そのままにしておくと周りの惑星を巻き込む可能性があるから、一度壊して作り直して欲しい との要望が来た。
(はぁ…仕事が増えた…)
そうこうしていると、遠くからピンク色の惑星が見えてきた。
大気圏に入ると、彼方此方がケーキのスポンジのようなものでできており、ある所はチョコの地面、マシュマロの岩(?)、ホイップクリームの丘などの、実に珍妙な大地をした惑星であった。
遠くに街のようなものが見える。
あの時のようにならないように、街から少し離れた所に着陸して4人の戦士と2匹の妖精を降ろした。
「僕らの故郷だよ!」
2匹の妖精は瞳を輝かせて大ジャンプをしたりして大喜びした。
ラゼルは2匹の妖精に”あるもの”を渡した。
「綺麗な宝石だね!」
「これは、遠く離れていても言葉を伝えてくれる魔法の宝石だよ
なにかあったらうちにお話して教えてね」
「うん!」
2匹の妖精は小さな両手で、水色に輝く宝石を握りしめた。
ラゼルは妖精達から離れる。
「ばいばい!」
「助けてくれてありがとう!」
妖精達は笑顔で手を振った。
ラゼルと4人はジェットフォームに変形すると、彼方へ飛び立っていった。
