鴉刈家の始まり

    ※グロテスクなシーンがあります。閲覧の際はご注意を。

     

    竜達の住むザイトテリアで変わった一族が暮らしていた。

    その一族は、周りの竜達と少し違った容姿をしている。

    薄い紫色の肌で、下半身は白い蛇。

    瞳孔と牙が鋭く、毒を持つ。

    その容姿のせいで嫌われていた。

    食料をもらうことができず、まともに生活ができなくなった。

    周りの竜達と違って翼を持たない為、引っ越そうと翼を持つ飛べる者にお願いしても、同じく嫌がられる。

    ここでの生活が耐えられないと、地面を掘ってザイトテリアから脱出を試みた。

    何代も何代もとてつもなく長い時間をかけ、掘っていた穴はやがて山の中に出た。

    幸い、出た穴の近辺に狼の住む郷があり、

    稀だが郷の民が食料を求めて歩いてくる道でもあり、

    食料が歩いてくるのは丁度いいと、

    毒蛇達はその穴を埋め立て、そこに暮らした。

     

    ある日、茶髪で瞳が赤い狼の女性が、前まで無かった毒蛇の家を訪ねてきた。

    不気味な容姿に驚いて逃げちゃうんじゃないかと、毒蛇は布を体に被って禍々しい姿を隠し、対面。

    でも、相手の狼の女性は鼻が良いからか、毒蛇が口で言わずとも正体はバレていた。

    布脱いでいいよと優しく言葉をかけると毒蛇は警戒し、

    いつでも毒を吹きかけて仕留めれるように目を見開き、巨大な牙を見せて威嚇した。

    それでも狼の女性は優しい表情のまま。

     

    その後も何度か交流し関係が良くなっていき、

    やがて毒蛇と狼の女性は子供を作った。

    その子供達は肌が薄い紫色だったり、血が紫色だったり、

    パッと見ヴァンデイクウルフでも実は毒を持っていたり、

    ヴァンデイクウルフの特徴を引き継いで、暗がりを好み、光が苦手だったり。

    その全く異なる種族の2人のおかげで特殊な特徴を持った新たな一族ができ、

    鴉のような暗い色の場所を好み、毒蛇のように獲物を仕留める『鴉刈』という新たな名字ができた。

     

    そうして、何代も長く年月が経ち、毒蛇と狼の女性の子孫達は村を作った。

    だが、人口の増加で山の中の食料を取り尽くし、飢えた民達は盗みをするようになった。

    かつての異なる種族の2人から得た高い身体能力のおかげで、盗みを難なくこなし、手慣れていった。

    鴉刈家の始まり

    ある日、毒蛇が愛用していた刀を引き継いだ村のリーダーの家で、1人の女の子が生まれた。

    宝石のような赤い瞳を持つこの子の名前は『庵』。

    とても元気で普通の女の子。

    物心が付く前は両親の仕事をしている様子を見て学び、

    まだ小さくて幼いながらも盗みを働いていた。

    でも悪意は無い。

     

    いつものように、少しでも両親の役に立ちたいと盗みに出かけていたある日、

    いつも通っていた道の木陰から突然男が飛び出し、襲いかかってきた。

    「よぉ〜、光が苦手なお嬢ちゃん♪」

    「な、なんでしってるの!?」

    次の瞬間、白く輝く刃物で顔の左を思いっきり切り裂かれてしまった。

    「きゃああああああああ!!!!」

    傷にそって大量の血が飛び散った。

     

    (こんな所で死にたくない!!!)

     

    庵は目にもとまらぬ速さで男の眼球めがけて唾を吐いた。

    すると男はおぞましい声を上げながら、目と鼻と口から大量の血を流し、前にばたんと倒れ込み、やがて静かになった。

     

    まだ殺し方を教わってないのに…殺してしまった。

     

    反射で突然唾を吐いただけで眼の前の男が血を流して倒れこむのを見て、庵はとにかく混乱。

    せっかく盗んで手に入れた食料をその場に投げ捨て、

    左目を抑えながら一目散に家に帰った。

    「うっ…ぐすっ…!」

    左目をまたいで顔の左に巨大な傷を負い、

    涙と大量の血を流して駆け込んで帰ってきた庵に母は戸惑った。

    強力な毒薬(鴉刈家では回復薬になる)を飲ませ、傷口に塗り込み、包帯で巻いて、布団で寝かせた。

    意識が朦朧とし、傷の酷い痛みで苦しみ、息を荒げる庵。

    見知らぬ男が弱点を知っていて、突然切りかかられ、左目を失明しかけ…

    とにかく混乱し、考え込むあまり熱を出した。

     

    翌朝、落ち着いてから両親に事情を説明した。 

    両親から、『鴉刈家は体に生まれつき毒を持っている』と伝えられた。

    数週間後、巻いていた包帯を解くと、

    宝石のように綺麗で赤かった瞳は白く変化し、

    1ヒアリル(数km)先がハッキリと見えていた視界も、

    0.3ヒアー(数cm)でも輪郭ですらほぼわからない。

    左目をまたいで巨大な傷が跡となって残っていた。

    それから庵は心を奥底に封じ込み、表に出さなくなった。

    突然襲われた時や静かに処理する時など、

    様々な状況下での毒の使い方と殺し方を教えてもらった。

     

    それから庵は鴉刈家の弱点の露呈を防ぐ為、

    本名を偽り、偽の名前で生きるようになった。

    あの時のような最悪な事態を招かないよう、

    それから毎日毎分毎秒、桁違いの身体能力を活かし、

    息を殺して耳を澄まし、察されないよう心までも隠して常に周囲を警戒し、

    もし弱点がバレても相手が痛みで絶叫する前に殺して処理。

    どんなに大きな傷を負っても表情1つ変えず、

    支障を出さぬよう、毒薬を服用して傷を倍速で回復させるようになった。

     

    彼女の密かな活躍を感じ取ったのか、

    突然レギオロスのリーダーが彼女の家を訪問してきた。

    今まで無償で行っていた盗みと暗殺を、善として活かさないかと聞かされた。

    今までと仕事内容が変わらず、多額の金が貰えるのなら…。

    2023-12-23