神になった人間の女の子

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    神になった人間の女の子

     

     

    さっきと違い、物凄く静かな空間にいる。

    殴って来た奴は?

    暴言沢山吐いてきた奴は?

    ナイフ持ってた奴は?

    両手が自由に動かせる。

    上半身がスースーする。

    強い抗えない眠気を感じるほどの猛烈な痛みが、まるで存在しなかったかのよう。

    ゆっくりと、閉じていた瞼を開ける。

    足元には、草原が少し広がっていて、薄く雲がかかっている。

    上を見あげると、小さな粒のような光が少し見える。

     

    ここは…どこだ?

    夢?夢を見てる?

    それとも…

    ここが…天国?

    抉られた腸はどうなった?

     

    両手をお腹に伸ばす。

    横に深く切り裂かれた傷が無い。

    腸もきちんと皮膚の奥に収まっている。

    身体中のアザも無い。

    血も一滴もついてない。

     

    死んだ…のかな…

    でも、肌の感触が妙にリアルだな…

    ほっぺをつねると痛みを感じる。

    あの時から格好がそのままだから、おっぱい丸出しだな…

    上着たいなぁ…

     

    気のせいかな…

    なんか光が強くなってる気がする…

    というかっ、近い!!!

    両腕で顔を隠す。

    光が収まると、優しい声が聞こえてきた。

    腕を下ろして正面を見ると、水色髪の美しい女性が優しく微笑みこちらを見ていた。

     

    ドキッ!

    めっちゃ美人なお姉さんがうちを見てる!

    やべっ、上着てない!

     

    頬を赤らめ、慌てて両手で胸を隠す。

    すると、美人なお姉さんは右手を口元へ持っていき、くすくすと笑う。

     

    お姉さんは、右手を下ろしてまっすぐこちらを見つめてきた。

    うちが状況を理解できていなくて混乱してるかどうか聞いているらしい。

     

    そりゃそうでしょ

    さっきまで複数の男たちに虐められてて、

    気がついたら草原で突っ立ってたんだもん!

    うちって、生きてるの?死んでるの?

     

    混乱していると、お姉さんは

    うちを体ごと蘇らせたこと、

    代わりに、少しでいいからお手伝いをしてほしいこと、

    うちの目をじっと見て優しく尋ねてきた。

     

    うち、生き返ったってこと?

    うち、死んだの?

    “お手伝い"って、何?

     

    するとお姉さんは、

    うちの胸に両手をそっと当てた。

    お姉さんの手、めっちゃ柔らかい…

    これって、新手のスキンシップ?

    なんて思っていたら、

    お姉さんの両手から水色に輝く光が溢れ、

    それは、うちの胸の中にゆっくりと入っていった。

     

    なんだ、体がぽかぽかしてきた…!

    今なら、さっきの奴らを倒せちゃいそう!

    頭のてっぺんからつま先まで、全身に凄まじい力が溢れてくる。

    すると同時に、体に違和感を感じた。

    耳の位置が…形が…変わってる

    おしりから、何かが…

    これ、しっぽ?

    髪の色も、長さも変わってる。

    服は…

    さっきより面積減ってない!?

    なんだこの水着みたいな…

    ズボン消えてパンツだけになってない!?

     

    突然力を与えられ、初めて感じる感覚に戸惑いを隠せない女の子に、

    お姉さんはまた目を細めてくすっと笑った。

     

    なんか、姿変わっちゃったけど、

    結局お手伝いって何!?

     

    お姉さんは笑みを浮かべながら、

    そのまま居てくれればいい

    と伝えた。

     

    どういうこと?

    居るだけでお手伝いできるの?

    よくわかんない…

    あと、なんでうちを生き返らせて、こんな不思議な力をくれたの?

     

    …てか、

    なんで死んだんだっけ…

     

    あ、そうだ

    生活に困ってて、居候させてくれる優しい人いないかなって街をウロウロしてたら、

    優しそうなお兄さんが

    「俺のとこ来なよ」って車に乗せてくれて…

    目的の場所?に着いて、建物の中に入った瞬間お兄さんの態度が変わって、馬鹿にしながら蹴飛ばしてきた…

    んだっけ?

     

    なんでこんな自分を救ってくれたんだろう…

    これ、夢とか天国とかじゃなくて、

    現実ってこと…なんだよね?

     

    まぁ、いっか!

    なんか生きてるし不思議な力を貰えたし!

     

    うちが口に出して言ってるわけじゃないのに、

    お姉さんはうんうんと頷いた。

    声に出してないのに頷くお姉さんに女の子はびっくり。

    心の声聞こえてたりするの!?

    お姉さんはまた うん と、笑みを浮かべ頷いた。

     

    生き返らせてもらったから、かわりにお手伝いをすればいいの?

    また うん と頷くお姉さん。

     

    力をもらってから、ずっと心と体の芯からぽかぽかする。

    なんか、なんでもできちゃいそう!

     

    …え?

    “足りない"?

    何が?

     

    生き返らせてもらった女の子だが、お姉さんはまだ物足りなそう。

    すると、お姉さんは目を瞑り、両腕を横に広げた。

    薄く青い光がお姉さんの全身を包み、

    すぅ と、青い髪の女性が光をまといながら出てきた。

     

    え、分裂した!?

    すんごい美人な人出てきたんだけど!?

    なんか、耳が変わった生え方してるね、

    あと、しっぽ?も…

     

    出てきた青い髪のお姉さんは瞑っていた瞼をゆっくり開け、

    女の子の方を向き、微笑んだ。

    自分を見て微笑む美人なお姉さんに、女の子は赤面する。

     

    紫の瞳がとっても綺麗…

    宝石みたいだ…

     

    見つめ合う2人を見て、お姉さんも微笑む。

    お姉さんは お友達を呼んであげるね

    とだけ言って、

    ほんのちょっと離れて、両手をなにやら動かし始め、橙色の光がほんわりと輝き始めた。

     

    お友達?

    うちにお友達なんていないんだけど…

     

    すると橙色の光から、

    茶色い耳としっぽが生えた幼い子供のような子が現れた。

    その子は両目を瞑り、胎児のように丸まっている。

     

    今度は光からちっちゃい子供が出てきた!?

    見たことないことを当たり前のように目の前で行うお姉さんに、女の子はびっくり。

     

    茶色い耳としっぽの子は目を開ける。

    周りをきょろきょろしている。

    水色髪のお姉さんを見て「まま〜!」と、

    大きな口を開けて笑顔で呼んだ。

     

    普通にママって言ってる!?

    なんだこれ…

    今生まれたんじゃないの!?

     

    その子と水色髪のお姉さんは笑顔で抱き合う。

    どういう気持ちで見ればいいんだ?

    そこの青い髪のお姉さんも同じ気持ちだったりするかな?

     

    そう心の中で思う女の子を青い髪のお姉さんは見て、笑みを浮かべた。

     

    女の子はその笑みがよくわからなかった。

     

    茶色い髪の子は水色髪のお姉さんと抱き合うのをやめて、

    今度は女の子の目の前で立ち止まり、口角を上げてにっこり笑い、両手を広げた。

     

    ハグを求めてるってことでいいの…かな?

     

    両手を広げてにっこり笑い、こちらをずっと見つめてくる茶色い髪の子の瞳を見つめる。

    この子も、青い髪のお姉さんと同じく、瞳が紫色なんだ

     

    女の子は、茶色い髪の子の瞳を見て口角を上げ、

    その子をギュッとハグをした。

    柔らかくてほかほかだ。

     

    茶色い髪の子はにこにこしながらハグをやめ、

    今度は青い髪のお姉さんとハグ。

    まさかこの子が、今はガチムチだなんて…

     

    なんか、この子が現れてから

    さっきよりチカラが湧いてくる気がする…

    もしかして、もうなんかできたりする?

    グッと力を込め、手を広げる。

    すると手元から青い何かが現れた。

    それは、段々と刃物のような形になり、炎のようにゆっくりとメラメラしている。

    さっきの男が握っていたナイフの何倍も大きい剣のようなものが手元から現れて、女の子はまたびっくり。

    現れた大きな青い剣を見て、女の子は目を見開いて頬を赤らめ、それを見つめる。

    これなら、さっきの奴らをボコボコにできそう!

     

    にこにこしていて楽しそうな茶色い髪の子を見て、

    水色髪のお姉さんはまた両手を動かし始めた。

    もしかして、もう1人生まれてくる?

    紫色のほんわりとした光が現れ、

    今度はそこから、金髪で狐の耳としっぽが生えた子が現れた。

     

    この子が現れた瞬間、ほんわりとした淡い光を放ち、半透明だった青い髪のお姉さんと茶色い髪の子は見た目がはっきりした。

     

    その子は地面に両足をそっとつけ、目を開いた。

    女の子を含め、皆に妖美な笑みを向けた。

     

    今さっきまで、水色髪のお姉さんと自分だけだったのに、

    気がついたらもう賑やかになっている。

     

    水色髪のお姉さんは4人を見て、

    うん と頷いた。

     

    ──あれからどのくらい年月が経ったんだろう

    うちは、前の世界にいた時よりよく動けるようになった、と言うか…

    一瞬で50mくらいを走れる。

    最初は混乱したけど、

    もふもふした耳としっぽが生えたこの姿も慣れて、

    耳をぴるぴるできるし、しっぽももふもふ動かせる。

    あの時、上が裸で何も着てなかったけど、

    うちのあの力なら、いつでもどんな姿になれる。

    元の姿にはいつでも戻れるし、うちの意思次第で服は自在で、魔法で着替えができる。

    死ぬ前に失った上のトップスも、今ならいつも着てる。

     

    青い髪のお姉さんは変わらず美しい。

    あのお姉さんは インディ って名前らしい。

     

    茶色い髪の子は前より身長が伸びて、いろいろ大きくなった。

    例えば、胸とか、筋肉とか。

    女の子とは思えないくらい筋肉質になっている。

    しっぽの本数も、あの時は1本しか無かったのに今は3本くらい。

    うちより1本多くなった。

    茶色い髪の子は、名前がやたらと長い。

    面倒だから、みんな シャン って呼んでる。

    まあ、うちのあの姿の名前も長いし、名前だけで呼んでるのは一緒か。

     

    1番最後に生まれてきた狐の子は、結構大人な女性に近づいてきた。

    耳は大きくもふもふしてきたし、しっぽも倍以上大きいし数も増えた。

     

    あの創造された二人は成長して、いつも一緒に遊んでる。

    でも、ちょっと草原が広がってるだけで、周りに何も無い。

    下は、植物が何も生えていない広大な大地が広がってるだけ。

    この世界、なんなんだ?

    今うちがいる草原くらいしか何も無い。

    ずっとここで過ごしてるから、飽きてきたな…

    そういえば最近、水色髪のお姉さんを全然見かけない。

    今日は偶然お姉さんの気配を感じる。

    いるのかな?

    女の子は3人を後にして、こっそりお姉さんの様子を見に行った。

     

    お姉さんはちょっと離れたところで、地面におしりをつけて座っていた。

    ん?

    なんか、お姉さんのお腹がまんまるで大きくなってる。

    もしかして、妊娠してるの!?

    いつの間に!?

    この世界には男の人なんて居ないのに、どうやって?

     

    お姉さんは大きなお腹を両手で抱えている。

    その大きなお腹の中からは、赤みを帯びた魔力の塊と気配を感じる。

    お姉さんは両脚を開いて、呼吸を少し荒くしている。

     

    もしかして、もうすぐ産まれるのかな?

    初めての出産で緊張してる?

    どんな子が産まれてくるんだろう。

     

    2025-09-20