ハキアマーダー界の誕生

     

    伝説の始まり

     

    とあるどこにも存在しない無空間に、特別な存在『セレスティア』が『素晴らしい世界を創る』という使命を持って生まれた。

     

    彼女の望む世界と、いつしか出現する民の為、

    彼女のみのこのしんとした空間に、

    特別な異空間『アウスルング』と、

    子供達の家となる柔らかい白い魔力で包まれた大地『シエルトハイダ』を創り、

    使命の実現の第一歩として自身の手で4人の子供達を創った。

     

    創世

     

    彼女の手によって創られた4人の神たちはすぐさませっせと仕事を始める。

     

    狼神は我が故郷の外に民の住まう『大地』を、

    力神は民の存在に必要な『魔力』を、

    魂神はあらゆる生命の存在に必要な『魂(命)』を、

    姿神はその『魂』に必要な『形』をもたらした。

     

    4人の神達の立派な仕事ぶりを確認し、

    セレスティアはさらに使命の実現に近づける為、

    世界の形成に必要な子供達を産み始める。

     

    神々の誕生

     

    シエルトハイダで早速1人目が生まれた。

    赤い髪でホカホカと温かい火神『カウィ』だ。

    疲れる事を知らないとても元気な火神だ。

    彼女はできたばかりの大地と空間に温もりをもたらした。

    彼女はすぐさま母の母乳を求め、たくさん飲み、すくすくと育っていった。

     

    カウィが元気に遊んでいたら、2人目が生まれた。

    母の手のひらの上で、水をまとい、まんまるとした卵が浮かんでいる。

    その卵はとても綺麗な宝石のようで、「すご〜い、きれ〜い…」

    カウィは目を輝かせてじっくり見入っていた。

    すると中の尾びれを持つ小さな女の子がうごめき、卵を破って出てきた。

    水色で体が半透明に透き通り、桃色の小さな心臓が鼓動しているのが見える。

    卵から出てきた小さな女の子にカウィが人差し指を近づけると、その小さな女の子は半透明なほっぺをすりすり。

    人差し指に小さな感触があるのを感じてにこにこしていると、雨が降ってきた。

    雨を降らし、水の中を自由に泳ぎ回る様子を見て、この小さな女の子は水神。『メアーゼ』と名付けられた。

    やがてこの雨は巨大な水たまりになり、いろんな生き物達が住むようになった。

     

    カウィとメアーゼが仲良く遊んでいると、3人目が生まれた。

    綺麗な緑色の髪を持つ女の子だ。

    すぐに3人目の存在に気づいたカウィとメアーゼは、笑みを浮かべて女の子の顔を覗く。

    すると女の子はキャッキャと笑い、同時に大地に草木が生い茂った。

    その様子を見てこの女の子は草神。

    『モイナ』と名付けられた。

     

    ある日、モイナとメアーゼが水浴びをして遊んでいた。

    水を浴びすぎて凍えるモイナを見たカウィは、ずぶ濡れのモイナをぎゅっと抱いた。

    「温かい…ありがとう、お姉ちゃん!」

    「モイナちゃん、ごめんね…」

    「うふふっ♪大丈夫だよ!」

    水をかけすぎてごめんねと謝るメアーゼをモイナはすぐに笑顔で許した。

    すると4人目の新たな女の子が大きな産声をあげた。

    綺麗な金色の髪の女の子は大粒の涙を流して大泣き。

    その子の声と合わせて辺りで雷が鳴り響く。

    あわてて3人がかけよってあやすも変わらず泣き続ける女の子。

    すると突然じたばた暴れ出し、小さな手で握っていた小さな雷霆が一際強烈な雷を呼び、大地を貫いた。

    ものすごい轟音が鳴り響くとともに、大地に巨大な亀裂ができた。

    その後、メアーゼが笑顔であやすと女の子は泣きやみ笑顔になった。

    雷が鳴り響く様子を見てこの子は雷神。

    『ケラヴノス』と名付けられた。

     

    4人が仲良く遊んでいると5人目が生まれた。

    茶色い髪の女の子。土神『ダオドネル』だ。

    彼女は砂や石を使った遊びが大好きで、いろんな山を作った。

    「そのお山なぁに?」

    「このお山はね、ねずみ色で大きくて、いろんな鳥さんが暮らしてるんだよ」

    「この穴は?」

    「この穴には『いせき』があって、たくさん人が住んでるんだよ」

    モイナが聞いた後も遊びに夢中で、ひたすら地面を掘ったり、石や土を積み上げていた。

    その様子を見ていたカウィが

    「楽しそう!一緒に遊ぼ!」と言い、

    ダオドネルと遊んだ。

    何時間経ってもダオドネルとカウィの2人が帰ってこず、メアーゼとモイナが呼びに行くと、

    2人は巨大な火山を創り上げていた。

    思わず口があんぐり開くメアーゼとモイナだった。

     

    5人がすやすや眠る夜、6人目が生まれた。

    紫がかった黒い髪の闇神。

    『オシアス』と名付けられた。

    セレスティアに抱かれるオシアスの顔を覗き込む5人。

    するとオシアスは小さな手でダオドネルの横髪を掴んで引っ張った。

    イタズラが好きな女の子だ。

    すくすく育ち、変わらず、暇があればイタズラをしかける。

    ケラヴノスが創った巨大な渓谷におもちゃを住まわせてみたり。

    でもどれも思っていた反応ではなく、冷たく返されてしまう。

    「なんで?なんで私にだけこんなに冷たいの…?」

    イタズラが好きな彼女だが、心は繊細で、

    1人で落ち着ける特別な場所を創って、そこに引きこもった。

    何晩経ってもオシアスだけ姿が無く、

    おかしく思った5人はオシアスが籠もっている『死界』に足を踏み入れ、

    黙って三角座りで落ち込むオシアスにメアーゼが後ろからぎゅっと抱いた。

    「ずっと姿が無いから心配したのよ。」

    4人がオシアスを囲い込み、カウィが左手を、

    モイナが右手をぎゅっと握った。

    暖かく柔らかな手と優しい笑顔で瞳を見る5人にオシアスは涙が溢れた。

     

    ある日、カウィとケラヴノスが外で遊んで、

    暫くすると、何故か胸を母乳でびしょ濡れにして帰ってきた。

    「あら、そのお胸どうしたの?」

    「わかんな〜い!なんか濡れちゃった!」

    右手に木の枝を持ち、左手でケラヴノスと手を繋いで、髪をボサボサにして笑顔のカウィ。

    初潮を迎え、胸が膨らんできた影響かと思ったが、

    どうやら、母の使命の影響を強く受けた結果現れた、特殊な体質によるものらしい。

    びしょびしょに濡れた服を引っ張って、

    「気持ち悪いよ〜!」と涙目になるケラヴノス。

    彼女が泣くと雷が鳴り響くのですぐにカウィが

    「大丈夫!遊んでればすぐに乾くよ!」

    とにっこり笑顔で言った。

     

    大きな胸と長く綺麗な髪を持った5人の子供達にも、その時が来たようだ。

    カウィ、メアーゼ、モイナ、ケラヴノス、ダオドネルは大地と海にそれぞれ子供達を産み落とした。

    今まで住んでいたのが動物達だけだった下界に、

    彼女達の子供達が住まうようになった。

     

    闇影界の出現

     

    オシアスの秘密基地だった『死界』の魔力が倍増している。

    死界の魔力が強い場所が徐々に歪み、異空間に転移してしまった。

    転移しても死界は留まることを知らず、どんどん範囲を広げ、魔力が増えていった。

     

    オシアスは、死界よりも良い環境ができた事が嬉しかった。

    でも元々死界は彼女だけの場所であり、民が存在しなかったので、

    彼女はそこに子供を産み、その子供達が 独立した死界で繁栄し住むようになった。

     

    黄金時代

     

    セレスティアは子供達が創り上げてくれた大地に続々と新たな子供達を産み落としていった。

     

    美神『リディス』は様々な場面においての『美』という概念をもたらした。

    容姿や景色が美しく感じるようになったのは彼女の影響。

     

    多産の神『ファンドラス』はハキアマーダー界に多くの住む民をもたらすため、とにかく沢山産む事に専念。

    彼女のお陰で大地であらゆる種族の民達が増え、急速に繁栄していった。

     

    多産の神の母を持つ鳥神『アロース』は、

    高くそびえる岩山を好み、子供達をそこに住まわせるようになった。

     

    最高神の母を持つ武神『ディオス』は、ハキアマーダー界に武器をもたらした。

    民達の生活が豊かになると共に、民達が争ったり戦争をするようになった。

     

    ケラヴノスが創り上げた渓谷に貴重な宝石や鉱石が沢山あるのを知り、竜神は子供達に採掘させた。

    掘った物をお金に換金し、ケラヴノスに譲ったり、飛べる鳥や竜の民達が各地へ掘った物を運び、

    武器や服、装備などに加工するようになった。

     

    武器の登場で各地で争いが起きるようになったのを見たファンドラスは、ディオスに控えるよう伝えた。

    それを嫌がったディオスはアウスルングの外へ家出。

    落ち着いて武器創りに集中できる隠れ家を創り、そこでとにかく熱中した。

     

    武器創りに熱中しているある日、彼の直ぐ側から強いノイズが発生した。

    一際強いノイズが起きるとともに、全裸の緑髪の女性が現れた。

    その女性は周囲を見回し、自身の体を不思議そうに眺めて触ったりしている。

    するとまた強いノイズが起き、今度は赤い髪の女性が現れた。

    「貴方が…お姉様…?」

    不思議そうに緑髪の女性を眺めると、

    その緑髪の女性は優しくうなずき、笑顔で抱き合った。

    するとまたノイズが起き、今度は水色の髪の女性が1人現れた。

    「あれ?あれ…?いない、いない…!」

    その女性はもう1人の誰かを探すように辺りをキョロキョロ見回し、見つからないと泣き出した。

    声を上げて泣き出した水色髪の女性を赤い髪の女性が笑顔で慰めた。

    すると今度は金髪で鋭い歯を持つ女性が現れた。

    現れたら現れたで「あれ?なんで裸なんだ?!」

    姉達が全裸で慰めているのを見て爆笑し始めた。

    1人でじっくり武器創りに熱中していただけなのに、何故か騒がしくなり、目のやり場に困るディオス。

    すると今度は紫の髪の女性が現れた。

    現れてすぐに姉達がぎゅっと抱いてきた。

    紫髪の女性が現れると発生していたノイズが収まり、しんと静まり返った。

    裸なので早く服を着せてやりたいが、5人分の女性用の服なんて持っていないので、とりあえず顔を眺める。

    5人の瞳にそれぞれ異なった図形が浮かび上がっているのを知り、

    緑髪の女性は忠誠の女神『ヘキサル』、

    赤い髪の女性は愛情の女神『ペンタル』、

    水色髪の女性は領域の女神『スクアス』、

    金髪で鋭い歯の女性は拘束の女神『ライアン』、

    紫髪の女性は混沌の女神『サクルス』と名付けられた。

     

    ヘキサルは生まれつき、自身よりも目上の者に従うのを好む。

    が、目上の存在を父親のディオスしか持たないため、父親と再開するといつも尽くそうとする。

     

    ペンタルのもたらした『愛情』はハキアマーダー界の人口の増加に繋がった。

     

    『領域』を司るスクアスは、各地を自身の異空間を通して移動し監視する仕事をしている。

    自身の力を使って時折闇影界にも入り、後に現れる姫様の移動手段となったり…。

     

    『拘束』を司る女神ライアンは主にマイナスなイメージでの影響となった。

    本人は普通だが、

    実は、縛った相手を見ると興奮する隠れドS。

    たまにペンタルを縄で縛るだけのSMごっこっぽいのをしたりするらしい。

     

    サクルスは『混沌』という概念をもたらした。

    後に現れる女神『スカーリー』と役割が被るが、最悪な事態を招いたのは彼女ではなくスカーリー。彼女は特に何もしてない。

     

    平和と混沌をもたらし、生まれつき手に白い天秤を抱く女神『スカーリー』が生まれた。

    彼女が現れてからは下界で起きていた争いが収まった。

    安全にハキアマーダー界を監視する場所が欲しいと、領域を司るスクアスに頼み、彼女だけの特別な異空間を用意してもらい、そこで監視するようになった。

    あまりにも暇で自身の天秤で遊んでいた所、下界の環境が悪化。

    火山の温度が急激に上昇しハキアマーダー界を灼熱の熱気が覆い、海水が減っていった。

    それを見たメアーゼが海の底をかっぴらき、無限の大海を創った。

    それだけでなく、大戦の原因にもなってしまった。

    スカーリーが天秤で遊んでいた際、

    オシアスが知らぬ間にスカーリーの影響を受け、お遊びで傑作のおもちゃを下界に投下した。

     

    闇影大戦時代

     

    「大戦が起きているわ!大変なの!!!」

    と、瞳に沢山の涙を溜めたスクアスがスカーリーの異空間に飛び込んできた。

     

    スカーリーのお遊びの影響を知らぬ間に受けたオシアスによって作られた影神が下界に投下され、大戦に発展。

    影神は侵略するため、自身の闇の魔力で手下を大量に作り出し、ハキアマーダー界の各地を襲う。

    隊に所属していない一般の民達が懸命に戦うも、どんどんやられていき、かつて繁栄していた大地には数え切れないほどの死体が転がる。

    刻一刻と死者が増えていくも、腕に自身のある者が現れた。

     

    火神『カウィ』の子孫の1人である女性は、自身で作った刀で、攻撃を一切受けること無く敵軍を一騎当千。

    竜神の子孫である毒蛇は、折れた妖刀から放たれた怨念で敵軍を呪い殺していった。

    と同時に、無関係な民達の命を数え切れないほど沢山奪っていく。

    土神『ダオドネル』の子孫は大太刀で、攻め落とされた大山を2つに切り裂き、山ごと敵軍を葬った。

    民だけでは危ないと神々も大戦に参戦。

    民の攻撃を食らってもぴんぴん元気だった影神が神々の強力な猛攻を食らい、怯んでいく。

    こうして神々が活躍するも、メアーゼの放った攻撃がケラヴノスの額に直撃。

    淡く青く光る斜めに入った大きな傷から大量の血を流してふらつくも、懸命に戦った。

    ある女性の子孫は双刀で、神々の猛攻を食らい瀕死になった影神を沈め、終戦となった。

     

    大地には沢山の死体が転がり、鉄の匂いがそこら中で舞い、所々で炎が黒煙を上げ燃え盛っていた。

     

    闇影大戦後

     

    ケラヴノスは目を覚ますと、

    大粒の涙を流して顔を伺うメアーゼと、

    心配そうに様子を見る姉妹達の姿が視界に入った。

    額には包帯が巻いてあり、交換したばかりなのに血が滲んでいた。

    「よかった…!無事だったのね…っ!」

    メアーゼはケラヴノスの手を強くぎゅっと握ったまま、大泣きしてしまった。

    不死身だから傷がどんなに深くて酷くて、普通だったら即死の大傷でも、いずれ元通りに回復するのに。

    「大丈夫だ…。そんなに泣かないでくれ…。」

    「帰ってきてくれてありがとうっ…!」

    「どのくらい経っているのかわからんが、寝てただけだ。久しぶりに体を動かしたから疲れたんだろう。」

    あの時に私をあやしてくれていた姉が、こんなに大泣きしているなんて…

     

    その時、スカーリーはファンドラスからどぎついお叱りを受けていた。

    「ご、ごめんなさいっ…!

    あの時は…気づかなかったの…っ!」

    した事があまりにも重大なので、本当は魂滅刑に処そうと思っていたファンドラスだが、

    重要な存在の彼女を殺すのは駄目だと、なんとか許された。

     

    ある異空間では、小さな魔力のかけらが輝いていた。

    その小さな魔力のかけらはやがて人型になり、意思を持った。

    この子は『ソルフィ』。

    彼女は、かつてハキアマーダー界の大元を創り出した狼神に似ていた。

    すると彼女のこの空間に徐々に下界を彷徨う魂達が集まってきた。

    淡く青緑色に輝く魂を両手のひらですくい上げ、

    「ずっと成仏することができず、

    誰にも見つけてもらえず彷徨っていたのね。

    でも、もう大丈夫。」

    新たに死と生の神が誕生したことによって下界の人口は安定し、

    今後は過度に大きな人口の増減が起きることはなくなった。

     

    現在

     

    ハキアマーダー界が平和になり、

    暇を持て余したケラヴノスは、ふと弟の様子を見にアウスルングの外へ。

    かつてあんなにちっぽけだった隠れ家が巨大な基地へ。

    「なんだ、こいつは…」

    命を持っていないのにも関わらず、意思を持つ女の子のような謎の存在に驚いた。

    あの時誰の声も聞かず熱中していたディオスに、試作の武器の使い心地を教えて欲しいと、槍のようなものを貰った。

    その槍は、彼女が生まれたときから手に握っていた雷霆と似ていて、一度振るうと電撃を放つ。

    (ほう…、人工的な『からくり』でこうも綺麗に再現できるとは…)

     

    ハキアマーダー界が発展し、ある程度の仕事を終えたカウィ・モイナ・ダオドネル・オシアスは故郷であるシエルトハイダで生活している。

    年に一度、宇宙戦士として活動しているケラヴノスを故郷に呼び、

    6人姉妹でハキアマーダー界を巡り、テネルレーナのパフェを食べに行くらしい。

     

    2023-12-22