最後の王女が記憶を取り戻すまで

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長さは約 1749字 です。

 

 

暇な医師の2人が世間話をしていたある日。

オグセルがふとリディスに、自身の母について話した。

蘇ったはいいものの、自分以外の記憶が抜けてしまい、寂しさを感じているとリディスに伝えた。

ペルグランデ一族を含め、

リディスの子孫達で栄えているエルフの街にかつて存在した王族は途絶え、

『彼女』が住んでいた館は、当時の王族の服や家具、王族に関する資料などを展示している場所へ変わり、

そこへ『彼女』を案内すれば、もしかしたら記憶を取り戻してくれるかも…とリディスは提案。

「どうせ暇ですし、あの子を連れて行ってみてはどうですか?

その間は私にまかせてください ^^」

オグセルが言うと、早速リディスはキング団の寮へ入り、

「貴方と息子さんが住んでいたあの家の様子を、

私と一緒に少しだけ見に行ってみない?」

「え…、いいんですか?

アンドロイドの私がアウスルングに行っても…?」

リディスが優しくうなずき、彼女をオフ着に着替えさせ、スクアスを呼んだ。

「私達をヴェリテに連れて行ってくれないかしら?」

 

2人はかつて彼女とその息子が住んでいた館へ辿り着いた。

その館は、懐かしくも知らないような…

彼女はそう思った。

黙って館を眺める彼女にリディスは

「いつもは人で溢れているのだけど、

今日だけ貸し切って、普段展示されているものは触れていいように私が適当に話をつけておいたわ。

さ、行きましょ。」

そう行って、アリサゴの左手をぎゅっと掴み、中へ入った。

中は、彼女が住んでいた当時とはがらりと変わっていた。

王族の服は、両親や親戚が着ていた当時のそのままのものが展示されていた。

「これらの服は貴方の血族が身につけていたものよ。」

服が展示されてあるケースを開け、彼女に触らせてみた。

アリサゴは何も言わず、黙って服を触って眺めていた。

当時の服を嗅がせたり触らせても変化が無いので、次は資料を見させた。

「これは貴方のお父様が実際に書かれていた日記よ。

貴方が生まれる前のころから記載されているわ。

言語が古いから今のハキアマーダー人は読めないけど、貴方なら読めるはずよ。」

アリサゴにその日記を手に取らせ、数時間かけてじっくり読ませた。

するとページをめくる度に少しずつ彼女の表情が変わっていき、日記を閉じて、

「そうだ…思い出したわ…

いつも桜の下であの本を読んでいた…

母様、父様、姉様皆、病で亡くなって…

姉様っ………」

アリサゴのじっとりと青かった瞳は赤く変わり、涙が溢れていた。

「そうだ、あの本…

あの私が好きだった本は?!」

アリサゴはバッと立ち上がった。

するとリディスは、普段は立入禁止で入ることが出来ない、当時の家具をそのまま展示している場所へ案内した。

棚の前へ連れ、

「当時に存在した書物は全てこの棚にあるはず。」

アリサゴは何十もある本の中からすぐに目当ての本を取り出した。

「これだ…私がいつも読んでいた本!

でも、展示されているんでしょ?勝手に持ち出していいの?」

「それは私がなんとかしておくわ。」

「お墓は?

両親と姉様のお墓は?今もあるの?」

「もちろん、今もきちんと存在するはずよ。

私の子孫達は王族のお墓を勝手に撤去したりなんかしないはずよ。

というか、貴方も私の子孫の1人だけどね♪」

リディスはアリサゴを連れて庭へ行った。

すると木の下でボロボロになった複数の墓石を見つけたアリサゴは駆け寄って、

「母様、父様、姉様、今まで寂しかったでしょう…

何万年も…放置してごめんなさい…」

アリサゴは墓の前でじっと座り込み、真上に出ていた日は沈み、辺りは暗くなっていた。

正座で座り込んでいたアリサゴは立ち上がり、リディスの顔を見て、

「行きましょう、リディス様。」

 

オグセルがモニターを見つめていると、扉をノックする音が聞こえてきた。

扉が開くと、リディスとその隣で、

青かった瞳が元の赤い瞳に変わり、

じっとりとした表情が、生前を思わせるパッと輝く明るい表情に変わった母を見たオグセルは、

「母さん、思い出したのですね…!」

オグセルは母に抱きつき、声を上げて泣き出した。

 

自分の団の寮へ戻り、いつもの服に着替えようとしたが、

肌が多く出る服が嫌いな彼女は、

また息子の元へ戻り、生前の時の服がいいと頼み込んだ。

母の願いを聞いたオグセルは笑顔で

「はい!

できるだけ再現してお渡ししますね!^^」

 

 

 

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